第16話 最後のオトシモノ

 コウキはツクリさんの中に入れずに外にあるポケットに入れた。

 中はもういっぱいになりそうだから、入れたらぐしゃぐしゃになっちゃうし。

 別に仲間はずれにしてるとかじゃないからね? コウキを思ってのことだから!


「あとひとつ。さっさと見つけてクリアしよう」

「あっ、うん。そうだね」


 古い地図から声がした。

 次が十個目だからしゃべるオトシモノはこれで終わりかな。


「ボクはイズル。君は?」

「僕は左東朔矢」

「そうか。じゃあササ。早く行こうか」

「さ、ササ?」

「君の名前、サトウとサクヤで分かれてるんだろ? だからそのふたつの最初を取ってササだ」

「あっ、なるほど」

「ボクは省略するのが好きなのさ。だからこのゲームも省略するよ」

「どういうこと? オトシモノがどこにあるのか分かるの?」

断定だんていはできないが、可能性はある。ボクを見たまえ」


 イズルを広げてみると、左端に赤色のバツマークがあった。


「もしかしてこのマーク?」

「そうだ。それがオトシモノかは分からないが、そこに行けば何かが分かるだろう。それが魔王様のすることだ」

「……最後のほうだから適当になったんじゃない?」

「かもな」


 ゲームとしてはどうかと思うけど、最後のオトシモノが早く見つかるなら、それはそれでいいと思う。だって十個集めれば帰れるし。

 あー、なんか早く帰りたくなってきた。


「じゃあさっそくこのマークのところに行ってみよう」

「ああ。移動中は別に話しかけてこなくていいよ。無駄なことはできるだけ省略したいからね」

「そ、そう」


 なんだろ。これっていわゆる合理的ごうりてきってやつなのかな。だとしたら、なんか寂しいな。今までがうるさすぎたのかもだけど。

 でも、僕はもうちょっと楽しくいきたいな。元の世界に戻っても。



 ——家から五分くらいは歩いたかな。


 目の前には小二のときによく行っていた公園がある。ここでは友達と遊んだ記憶よりもひとりで遊んだ記憶のほうが濃く残ってる。

 僕はどんな子どもだったんだ……って今も子どもか。


「この公園が目的地のようだね」

「だね」


 バツマークが示す場所はこの公園で間違いない。でも、周りを見てもオトシモノっぽいものはどこにもなかった。


「イズル」

「なんだい」

「ここに来てなんか分かった?」

「いいや」

「そう」

「とりあえず中に入ってみよう。外からじゃ分からないこともある」

「分かった」


 公園内に入ってみても特に変わったことはなかった。


「おや?」


 と思ったら、イズルが何かに気づいた。


「ササ。ボクを見たまえ。ボクには分からないが、さっきまでとどこか違ってないか? 体の中が動いた気がしたんだ」

「あっ、変わってるよ!」


 イズルの見た目が変わっていた。バツマークがより大きく見えるようになっている。というより、全体的にズームされた感じだ。


「見やすくなったということか?」

「そうそう。えーっと……マークはもうちょっとあっちか!」


 バツマークのところまで来てみると、僕の背より低い木が密集してドーム状になっていた。周りをぐるっと見てみたけど、オトシモノはどこにもない。ただ、この木のドームの真ん中には子どもが入れそうな大きさの穴がある。


「あれ、なんかここ見たことある気がする……」

「それはササの世界でのことかい?」

「うん、そうだと思う」

「入ってみたらどうだい?」

「えー」

「というか、入ってくれたまえ」

「なんでよ」

「周りにないならこの中しかないだろう」

「そ、そうだけど……」


 なんか出てきそうでちょっと怖いんだよなぁ。昔はこういうところも平気で入ってたんだけど……。

 あれ、そうだっけ? なんか今、急に昔の記憶が戻ったような……。


「よし、入ってみよう」

「ああ」


 しゃがんで奥を見てみる。外は明るいはずなのに、中はかなり暗い。

 この穴の大きさなら僕もギリギリ入れそうだ。それはつまり、僕がまだ子どもだってことだけど。


「まだかい?」

「入るよ!」


 草木をかき分けながらゆっくり進むと、


「おー、すっげー!」


 子どもが三人くらい入れそうな空間があった。


「思ったより広いな」


 外から見たときの暗さは中からだとそこまで感じなかった。僕がここに入るのを怖がるように、魔王様が設定したのかもしれない。いや、中から外の光が見えるからか。


「ササ、そこに何か落ちてるよ」

「そこ? あぁ、ほんとだ。えっ、てかこれって……」


 そこには着物姿でおかっぱ頭の日本人形が落ちていた。その人形と目が合った瞬間、僕の頭に映像が入ってきた。


「思い出した!」

「何をだい?」

「ここ、僕が小さいころに秘密基地として使ってたところなんだよ」

「ほう」

「しかもこの人形、おばあちゃんが持ってたやつにそっくりなんだけど。僕が壊しちゃって怒られるのが嫌だったからここに隠したんだった」

「それはずっとそのままだったのかい?」

「いや、どうだったかな。そこは細かく覚えてない」

「そうか」

「でも懐かしいなぁ。ここって今もあるのかなぁ」

「ササ、どうやらそれが最後のオトシモノみたいだよ。ほら」

「あっ……」


 イズルを見てみると、赤色のバツマークが消えていた。


「何か言い残したことはあるかい?」

「いや、大丈夫」

「そうか。別れのあいさつは省略させてもらうよ」

「最後くらいは省略するなよー」

「……」

「ほんとに省略しやがった!」


 やっぱり変わったやつだったな。

 でもこれでオトシモノが十個集まった。やっと元の世界に帰れる!


 ——そう思ったのは間違いだった。


 秘密基地から出て数分待ってみたけど、魔王様も出てこないし特にこの世界に変化もない。


 「なんだよ、十個集めたのになんも起きないじゃん! どうなってんだよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る