第15話 巨大スライム(?)
「ねぇちょっと待って!」
「待てない! 俺は自分では止まれないのだ! はっはっは!」
「じゃあ聞くけど、もしかしてその家に行こうとしてる?」
「そうだ! それがどうした!」
「それ僕の家だよ!」
「おーそうか! そいつは楽しみだなぁ、っておい! サトウサクヤ! 二階の窓が開いてるぞ! しっかりしろよ!」
「うそっ?! 行くときちゃんと閉めたと思うけど」
「いま開いてるんだから閉め忘れたんだろ!」
「えー」
おかしいなぁ。ちゃんと閉めたと思ったんだけど。もしかして誰かが開けたのかなぁ。いや、誰もいないか。あっ、魔王様が開けたのかも。だとしたらなんのために? うーん……。
それか、さっきのはこの世界に来る前の記憶だったのかも。うん、それがいちばん可能性が高いな。ここでの時間が長すぎて記憶がごっちゃになってるんだ。
「まぁ別にいいけどな! 俺このまま入れるし! じゃあ土足で失礼するぜぇ! 俺の足がどこにあるかって? それは俺も知らーん! はっはっは!」
「だから聞いてないって……」
コウキが二階の窓から僕の家に入った。
あそこは今、物置部屋になっている。大量にあるわけではないけど、人がひとり歩けるくらいのスペースしかなかったはず。たぶん……。
さっきの記憶が現実のほうだったら、もしかしたらこっちの部屋もちょっと違うのかもしれない。
「ふぅ」
やっと家の前に着いた。ドアを開けて……ってあれ?
「ここも開いてるじゃん」
まぁいっか。ゲームだし。
「おーい、コウキー。着いたよー」
「早くしてくれ! よく分からん物体に顔面から突っ込んじまった! 俺の顔面がどこにあるかって?」
「もういいってそれ!」
「俺も知らーん! はっはっは!」
「聞いてないし」
コウキが入った部屋に行くと、記憶どおりの物置部屋だった。
ギンゴが言ってた『落ちてるものはすべて魔王様のオトシモノ』というのは、ここには当てはまらないらしい。家の中に置いてあるものは落ちてるとは言わないからかな。
「サトウサクヤ! ここだ! 早く助けてくれ!」
「はいはい」
コウキが刺さっていたのは、昔よく使っていた巨大ビーズクッションだった。
買ったばかりのときは形がよかったのに、今はもう変わり果てた姿になっている。
コウキがよく分からないと言うのも僕にはよく分かる。これはクッションというより……スライムだ。
「大丈夫?」
「ふー、大丈夫だ! ありがとな!」
「それで、オトシモノがありそうな感じする?」
「おうよ! この部屋からビンビン感じるぞ! でも俺にはどれか分からん! はっはっは!」
外で聞いていたコウキの声は、家の中で聞くととんでもないほどうるさい。それもこんなに物が密集した部屋の中だから、めちゃくちゃ耳に響く。
「あのさ、もうちょっと静かにしゃべれない? そろそろ耳がやばいんだけど」
「それは悪かったな! でも無理だ! 俺にそんな能力はない!」
「じゃあどんな能力ならあるんだよ……」
「ジェット機並みの音を出すことはできるぞ! 飛ぶときにその音を出せば最高の気分になれるんだ! 聞きたいか?」
「いや大丈夫。てか絶対やめて。ここでやったらガチで耳が終わるから」
「そうか! 残念だな! はっはっは!」
危ない危ない。もしここでそんな爆音を出されたらたまったもんじゃない。耳どころか、頭までおかしくなる。これは早く見つけないとな。でも……。
「この中から探すのは大変だぞ……」
この部屋ってこんなにごちゃごちゃしてたっけ? 現実だともっと整理されてたと思うんだけど……。いや、されてたよ絶対。だってお母さんが前に掃除してたし。
じゃあなんでここはこんなになってんだろ。やっぱりオトシモノを見つけにくくするためかな? そうだとしら、いちばん見つからなそうなところにあるよね。例えば、ダンボール箱の中とか。
「……ないか」
とりあえず開けられそうなやつは全部見てみたけど、どこにもそれらしいものはなかった。
あれ、そういえばどうやって見分けるんだ? 今までは外に落ちてたから確定してたけど、ここはいろいろありすぎて見つけたかどうか分からなくないか?
「ねぇコウキ」
「なんだ!」
「ここにあるものとオトシモノって見分けがつくようなものってあるの? なんかマークが付いてるとかさ」
「それは知らん!」
「だよねぇ……」
「ただ!」
「ただ?」
「俺の体が引きつけられる感覚はある!」
「えっ?」
「だからこの部屋に来た! だからあのよく分からん物体に突っ込んだ!」
「ちょ、ちょっと待って! それってつまり……」
僕はビーズクッションのチャックを引いて中に手を突っ込んだ。
「……あっ、なんか入ってる!」
「なんだなんだ! 早く出してみろ! 俺を引き寄せるものがなんなのか早く見せてくれ!」
「うるさいうるさい! いま出すって!」
取り出してみると——古い地図だった。
「そいつが俺を呼んでたやつか! 今にもそいつを突き抜けたい気分だぜ!」
「絶対ダメだからな!」
僕はコウキをつかんで飛ばないようにした。
「なんだよ。最後くらいいいだろ」
そうだ。この地図がオトシモノならコウキとはここでお別れだ。
でも、正直ありがたい。これ以上近くにいたらほんとにやばかった。
「ダメなものはダメ!」
「はんっ、ケチだな」
コウキの声が小さくなった。あんなにうるさかったのに信じられない。でも、これでこの地図はオトシモノ確定だ。
ありがとうコウキ。そしてさようなら。
「そんなにケチ……嫌われ……」
コウキの声は途切れ途切れになり、そのまま聞こえなくなった。
「最後の最後までうるさかったなぁ」
でも、自分が消えるって分かってても最後まで声を出そうとしてたのは、コウキらしくていいなって思う。
それにしても魔王様。オトシモノを隠すってのは、ルール違反じゃないの?
これのどこがオトシモノなんだよ……。
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