第12話 特殊な体の持ち主

「はぁ、マジで時間の無駄だったわぁ……」

「もういいかな?」


 手に持っていたシルクハットが話しかけてきた。僕のことをずっと待っていたんだ。

 これは魔王様のせいだから僕は関係ない。絶対に。


「ごめん、待たせて」

「別にいいよ」

「じゃあ次のオトシモノを探しに行こう!」

「その前に自己紹介をしないかい?」

「あっ、そうだね。僕は左東朔矢」

「私はハクトだ。よろしくな」

「うん、よろしく」


 ハクトは今まででいちばん礼儀正しくて普通だ。

 こんなに普通だとちょっと物足りない感じがするけど、それはたぶん、僕の感覚がおかしくなってるだけだ。


「ハクトは魔王様のオトシモノがどこにあるかのヒントってある?」

「あるよ」

「よかった。それで、次はどこかな?」

「京都だね」

「京都……また離れるのかぁ」

「離れる? それはどこから見て?」

「僕の地元の東松山だよ。埼玉の」

「なるほど。たしかに離れるね。それもかなり遠くに」

「うん」

「でも君はすごいね」

「え?」

「埼玉からここまで、ひとりで来たんだろ?」

「いやぁ、みんながいたからだよ」

「みんな?」

「魔王様のオトシモノだよ。今までの」

「……なるほどね」


 なんだろ。ハクトはすごく落ち着いてる。どこかの国の王子様みたいだ。実際の王子様がどんな感じかは知らないけど。

 まぁ僕が言いたいのは、アニメとかマンガとかに出てくる王子様キャラみたいな感じってこと。


「ちなみに、京都のどの辺にあるかは分かる?」

「そうだな……京都駅の近くにあるお寺。その西か東かのどちらかだね」

「それだけ分かってれば十分だよ!」

「それはよかった。では行こうか」

「うん」


 僕たちはずっと停車していた新幹線に乗った。


「君は、マジックは好きかい?」


 席に着いてすぐ、ハクトが聞いてきた。


「うん。好きだよ」

「やったことは?」

「低学年のときに簡単なやつをちょっとやったかな」

「ほう。それはどんなやつだい?」

「親指が長くなるとか取れるとか、そんな感じの」

「それはおもしろそうだね。ちょっと見せてくれるかい?」

「えっ、見たことないの?」

「ああ」


 僕は何を聞いてるんだ。見た目に引っ張られたのもあるけど、あまりにも普通に話すから気にせず質問しちゃった。


「じゃあまずは長くなるやつね……はい!」

「ははっ、いいね。では次も頼むよ」

「えーっとたしか……こうだ!」

「ははっ、それもおもしろいね」

「よかった」

「見せてくれてありがとう」

「全然いいよ」

「お礼にひとつ、こちらも見せてあげよう」


 ハクトはそう言うと、自分の色を一瞬で白から黒に変えた。


「おおー、すごいすごい」

「ちょっと期待外れだったかな」

「そんなことないよ!」

「ありがとう。だが、本当は私も自分らしいマジックがやりたいんだ」

「それはその……中からハトが出てくるみたいな?」

「ああ」

「ハクトならできるんじゃないの?」

「いや、それが無理なんだ」

「えっ?」


 話を聞くと、ハクトの体は少し特殊とくしゅで、物を出したり消したりすることはできるんだけど、それが自分の意思ではできないらしい。

 勝手になんかが出てきたり、入って消えたりする。ちょっと複雑ふくざつだ。


「でも……それってマジシャンみたいじゃん」

「そうかい?」

「だってそこからなんかが出てくるんでしょ? しかも消えることもある。むしろ本物のマジシャンなんじゃない?」

「……そういう考えもあるのか」

「ちょっと試してみてもいい?」

「えっ?」

「なんか入れたらどうなるか」

「やめておいたほうがいいと思うよ」

「でも、成功すればハクトも自信が持てるようになるよ!」

「うーん……」


 僕はツクリさんからカーボを取り出した。

 悩んでそうだったけど、かまわずカーボをハクトの中に入れてみた。

 すると、一瞬で消えた。


「あっ!」

「やった、消えたよ! 成功だよ! 小さくしてもらったのがここで役に立つとはね」

「まずいな……」

「えっ?」

「君、魔王様のオトシモノをここに入れてしまったのかい?」

「そ、そうだけど。やばかった?」

「ああ。すまないがかなりまずい状況だ」

「えっ?! それってどういうこと?」

「私の体は、どこにつながっているか分からないのだ。つまり、オトシモノがどこかへ飛んでしまったのだ」

「えぇぇぇ!!」


 絶叫ぜっきょうとともに、京都駅に着いた。

 全身の力が抜けたような感じで歩きながら、ゆっくりと新幹線から降りた。


「どうしよどうしよ、やばいって! 十個そろってないとクリアできない! ってことは元の世界にも戻れないってこと? マジでやばい!!」

「すまない。私がちゃんと見ていれば」

「ハクトは悪くないよ! 僕が勝手に入れちゃったんだから。でも、どうしよう。どうしたらいいと思う?」

「……すまないが、僕の力ではどうしようもできない。だから今はオトシモノを見つけよう。もしかしたらそのオトシモノが、何か解決策を持っているかもしれない」

「そ、そうだね。そうしよう!」


 僕は落ち着くために深呼吸をした。


「たしか……駅を出て、近くの東か西だったよね?」

「ああ」

「じゃあ東だ。僕の名字にも入ってるし」


 駅を出て少し歩いていると、それっぽいのが見えてきた。思ったよりも大きいところだった。


東本願寺ひがしほんがんじか……なんか僕の願いを叶えてくれそうな名前だな」

「……そうだね」


 入り口の近くに着いた。

 そしてその近くに、ボールみたいのが落ちていた。


「カーボ!!」

「いや、それは石だよ。おそらく漬物石つけものいしだ」

「石か……」


 石がカーボに見えたなんて……。どこに行っちゃったんだよ、カーボ……。

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