第11話 途中経過のお知らせ

「あー、あー、テストテスト。あれ、これって音入ってる?」


 やっぱり魔王様だった。気づいてなさそうだからこっちから声をかけよう。


「魔王様!」

「おぉサクヤよ」

「どうしたんですか?」

「ちょっとゲームの途中経過を知らせようと思ってな」

「あっ、なるほど。そこは登場するんですね」

「それはそうだろう。わしがこのゲームを作ったのだから、わしにその責任がある」

「へー」

「調子はどうだ?」

「いいですよ。てか、この世界で悪くなることあるんですか? お腹も減らないし喉も渇かないし。まぁ疲れはしますけど、少し休めば戻りますし。それに、寝なくてもやっていけるし」

「ほう、これは相当ストレスが溜まっているようだな」

「聞いてました? 調子はいいんですよ!」

「それは見れば分かる。だが、ストレスというのは見ても分からないものだ」

「たしかに……」

「ここまでいろいろなことがあったんだろう?」

「はい。それはもういろいろありました」

「別に説明せんでもよいからな? わし、ずっと見とったし」

「しませんよそんなの」

「ガッハッハ、こりゃあ一本取られたわ!」


 はっ? 別になんも言ってないけど。


「それで、どうだ?」

「はい?」

「ストレス、解放したくないか?」

「いや別に……」

「もったいないぞ? いま解放しておけば、この先が楽に進めるかもしれないし」

じゃん」

「それに、なんかのステータスが上がってなんかすごいことになるかもしれないし」

「なんかってなんですか。全然その気にならないですけど」

「それはやってみてのお楽しみだ。先に教えてしまってはつまらんだろう」

「それはたしかにそうですけど、ツクリさんが言ってましたよ。ゲームに参加してる人間はあくまで現実と同じだって。だからそんなのやっても意味ないんじゃないですか?」

「……余計なことを言いおって」

「なんか言いました?」

「いや、なんでもない。こちらのことだ」


 絶対なんか言ってたでしょ……。


「それより、本当によいのか? 現実でもストレス解放したら気持ちがよくなるものだろう?」

「まぁそういうこともありますけど、僕は別にいいです」

「えっ、ホントに? あとで言っても知らないよ?」

「……なんかたくらんでますよね?」

「何を言うか。わしはただ提案しているだけだ」

「それでお願いしたら、残り二回のうち一回消費するとか言うんでしょ」

「……ガッハッハ! バレてしまっては仕方ない。なぜ分かった?」

「しつこいからですよ」

「しつこいとはなんだしつこいとは! こっちは貴様のこれからを思って言ってやってるのに」

「それはありがた迷惑です! 今だとなんちゃらハラスメントとか名前付けられるかもしれませんよ」

「ふんっ! そんなのが怖くて魔王なぞできるか! わしはこの世界の王だぞ。そして魔の王でもある。すなわち魔王なのだ!」

「はいはい、分かりましたよ。それで、途中経過はどうなったんですか? 話がズレてますよ」

「おう、そうだった。では途中経過といこう」


 やっと始まるよ……。


「まずはわしのオトシモノだ。今のところ、十個のうち六個は集めているな。まぁ上出来だろう」

「どうも」

「残りの四個を集めるときに、すでに集めたものをどこかへやってしまうことがないよう気をつけるのだぞ」

「分かってます」

「次。先ほどサクヤのほうからもあったように、わしの助けを使えるのはあと二回だ。どこで使ってもよいが、使い道はしっかり考えるのだぞ」

「はい」

「そうだ。これは言い忘れておったのだが、わしの助けでもできないことはある」

「えっ?! それ始まる前に言わないとじゃないですか!」

「いま言い忘れたって言ったよね? 耳ある?」

「うざっ……」

「なんか言ったか?」

「いや、なんでもないです。それでそのできないことってなんなんですか?」

「散らばったオトシモノを集めることと、死んだ者を生き返らせることだ」


 一個目のはそもそも浮かばなかったからいいけど、二個目のは言わないとダメでしょ!


「まぁ他にもあるかもしれんが、いま思い出したのはこれだけだから、とりあえず覚えておくように」

「あのぉ、魔王様ってゲームマスターみたいなもんですよね? こんな適当なことあっていいんですか?」

「えっ、いいんじゃないの? だってマスターでしょ? なんでもわしが決めるってことでしょ? じゃあ合ってるじゃん」


 なんでひとりで納得してんだよ……。


「はぁ……まぁいいですけど」

「あっ」

「まだなんかあるんですか?」

「勘違いしてるかもしれんから言っておくが、別にわしに力がないというわけではないぞ? ゲームバランスというものがあるから、仕方ないのだよ」

「いや、はい。それは分かってるんで大丈夫です」

「ならよい」


 真実はどっちか分からないけど、どうせ使えないんだからどっちでもいいよ。


「では最後に、これまでどれだけ時間が進んだか……それは教えん」

「はぁ?! それじゃ途中経過の意味がほぼないじゃないですか!」

「別に知ってもなんの役にも立たないだろ」

「それはこっちが決めることですよ」

「はいはいそうですか。でも教えませーん」


 魔王様は陽気な感じでゆらゆら揺れている。あれは超イラつく。


「じゃあもう終わりですよね? 次のオトシモノ探しに行ってもいいですか?」

「えー、こっちはひまなんだけどなぁ」

「僕の時間なんですけど」

「ちょっとくらい遊んでくれたっていいだろ!」

「勝手にどっかで遊んでてくださいよ!」

「もうええわ! どうもありがとうございましたー」


 魔王様は謎にお辞儀じぎをしたあと、後ろに進んで消えていった。


 いや、芸人かよ!

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