第9話 この世界のあれこれ
「ツクリさん」
「なんだね」
「次の魔王様のオトシモノのヒントはありますか?」
「うむ。吾輩の頭の中には
「名古屋……また離れるのかぁ」
「トウサクは名古屋への行き方は分かっておるのか?」
「今は分からないですけど、たぶん新幹線に乗ると思うので駅に行けば分かると思います」
「ではその駅へと参ろう」
「はい」
僕はツクリさんの両腕(?)を握りながら熱海駅へ向かった。
——三十分近く歩いてやっと駅に着いた。
歩いている間はツクリさんのつまらない話をずっと聞かされていた。あれはたぶん、全部作り話だ。ツクリさんだけに。ぷぷっ。
駅の中は思っていたよりも分かりやすかったから、すぐに新幹線に乗れた。
ここからは二時間くらいかかる。ここでまたツクリさんの話を聞くのはさすがにキツい。
もう疲れたし、寝ようかな……。
僕はゆっくり目を閉じた。
「おい貴様! 寝てはならんぞ!」
「うるさいなー。別にいいじゃないですか、時間決まってるんだから」
「寝言は寝てから言え」
「はぁ?」
「吾輩はこれまでのことは分からんが、この世界の設定はよく分かっておる」
「だから?」
「この新幹線に運転手なぞおらん。そして、貴様が降りたいと思ったときに新幹線は止まり、ドアが開かれる」
「うん」
「さらに、この世界での睡眠というのは貴様の世界とは違ってかなり深いのだ。一度眠ってしまったらどれくらい時間が進むか分からんぞ」
「あっ、そうだった……」
危ない危ない。もしここで寝てたら終点まで起きなかったかもしれないってことか。いや、そこに着いたとしてもそのまま眠ったままだったかも。
ふぅ……やばかった。
「ツクリさん」
「なんだね」
「その……ありがとう」
「うむ」
僕はなんだか照れくさかった。
横にいるツクリさんに見られないように窓のほうに顔を向けたけど、よく考えたらどうやってこっちを見てるんだろ。
「まだ時間はあるのでいろいろ聞いてもいいですか?」
「吾輩のことをか?」
「いや、このゲームのことです」
「うむ。吾輩が知っていることならな」
「じゃあまず、魔王様のオトシモノはどうやって僕のことを見てるんですか? 顔もないのに」
「それを言ったら、どうやって話しているのか、こっちのほうが先ではないか?」
「まぁどっちでもいいですけど、どうなんですか?」
「簡単なことだ。吾輩たちが魔王様のオトシモノだからだ」
「それ説明になってなくないですか?」
「いいや。魔王様の力が偉大だということが分かるであろう。物に見たり聞いたりという力を与えることができるのだからな」
「……それってつまり、ゲームだからってことですよね?」
「聞きたいことはもう終わりか?」
「ちょっと! 無視しないでくださいよ!」
「で、もう終わりなのか?」
「分かりましたよ。次いきますよ、次」
「うむ」
「えーっと……これは今さっき思ったことなんですけど、やっぱり僕、寝てもよくないですか?」
「はっはっは……貴様はバカなのか? それともアホなのか?」
「前に寝そうになったときにカーボが電撃を出してきたんですよ。だから僕が寝ちゃったらそれをやってくれれば起きれるなって思って」
「吾輩は電撃なぞ出せん」
「えっ、そうなの?」
「うむ。吾輩ができることといえば、食すことだ。すなわち、吾輩が貴様を起こすときが、貴様の最後となる」
「やば……」
起きる起きないの話じゃなかった。生きるか死ぬかの話だった。
僕はまたひとつ何かを学んだ気がする。
「安心せい。
「あっ、はい……お願いします。じ、じゃあ次の質問です。この世界はまだ夜になってないんですけど、そもそも夜ってありますか?」
「それはない」
「なんでですか?」
「基本的に、夜になれば人は寝るだろう。だが、この世界での睡眠は悪だ。だからずっと昼の状態なのだ」
「なるほど」
「ただ、ごく
「へー」
夜の設定なんて考えただけでも怖いな。
「じゃあ次は、なんで僕はレベルアップしないんですか?」
「レベルアップ?」
「はい。こういうRPGみたいなやつには普通はレベルアップがあるんです。例えばここだと、オトシモノをひとつ集めるごとにレベルアップして、僕のステータスが上がるとか」
「そのステータスとやらのことはよく分からんが、この世界はゲームといっても、それに参加する人間たちはあくまで現実と同じなのだ。もちろん、腹が減らないとか小便が出ないとかの設定はあるがな。これで答えになっているかの?」
「……はい、大丈夫です」
じゃあ僕はなんも変わらないってことか……つまんな。
「そうだ、これを伝え忘れておった。人間は現実と同じと言ったが、だからといって現実と同じことしかできないというわけではない」
「えっ?」
「貴様も経験があるかもしれんが、ゲームの影響は受けるのだ」
「あぁ、なるほど……」
それはあれかな? サオリさんと空を飛んだやつ。あれは現実では無理だもんね。
「そろそろ名古屋じゃないか? 降りる準備を進めておけ」
「あっ、ほんとだ」
ずっと話してたから気づかなった。そういえば電車は基本的に止まらないから普通のより早いんだっけ。
——名古屋駅に着いた。
かなり大きかったけど、外に出るのは簡単だった。
「ここが名古屋かぁ……」
「トウサクよ。あっこに何か落ちておるぞ」
「あっこ?」
「あのベンチのところだ」
「ああ、あそこね……」
ベンチの前まで行くと、そのそばにどこにでもありそうなメガネが落ちていた。
「次はメガネかぁ……でもこれで五個目だ! やっと半分!」
「よくやった。これで吾輩の出番は終わりだな」
「ですね」
「最初は食してやろうと思ったが、そうしなくてよかった。魔王様をこの目で見ることができたからな」
目はないけどねっていうツッコミは入れないでおこう。食べられたくないし。
「僕もいろいろ教えてもらえたからよかったです。ありがとうございました」
「うむ。あと半分。トウサクならなんとかなるだろう。
「はい」
背中にあったツクリさんの気配が消えた。
やばいやつだったけど、いいやつでもあったな。
とりあえず、生きててよかった。ほんとに。
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