第8話 魔王様っぽい!

 ギンゴはポケットに入るから別にいいんだけど、サオリさんはずっと持ってなきゃいけなかったらから、これはかなり助かるぞ。


「オトシモノが見つかったことだし、俺はここまでのようだな」

なつかしい記憶も見れたし、久しぶりのサッカーも楽しかった。ありがとう」

「いいってことよ! んじゃ、頑張れよー」


 カーボの動きがぴたっと止まった。これでただのボールに戻ったのか。

 うるさかったけど、なかなかおもろいやつだったな。


 よし、さっそくこのリュックを活用しよう。まずはサオリさんを入れて……。


「いきなり入れるとは礼儀れいぎがなっとらんぞ小僧!」

「おー、このタイミングだと思った」

「聞いておるのか? 耳の穴にゴミでもまっておるんじゃないか?」

「聞こえてるよ!」

「なんだその態度は! けしからん。貴様、食してくれようぞ」


 また変なやつがきたなぁ……。


「っておい! お前なにやってんだよ!」

「口を閉じていろ! そして吾輩わがはいの食事シーンを静かに見ておれ!」

「このくそリュックがぁぁぁ!」


 リュックが僕の足を食べようとしている。

 このままだと引きずり込まれるような気がする。そろそろ抵抗ていこうするのも限界だ。この中に入っちゃったらどうなるんだろ。さらに異世界に飛ばされるとかないよね?


「分かった! 分かったから食べないで!」

誠意せいいを見せんか、誠意を!」

「ほんとにすみませんでした! もうしないのでゆるしてください!」

「うむ。分かればよろしい」

「はぁ……はぁ……」


 疲れた。なんでこんなんで疲れなきゃいけないんだよ。

 便利だけどめんどいやつ認定だ。すぐにでも次のオトシモノを探そう。


「吾輩もいきなり食べようとして悪かったな」

「い、いえ」

「では、それぞれ自己紹介といこう。吾輩はツクリである。貴様は?」

「左東朔矢です」

「そうか。ではトウサクと呼ぶぞよ」

「なんか嫌なんですけど、その響き」

「なんだと? 吾輩の呼び方が気に入らんのか?」

「いや、大丈夫です」

「そうだろうともそうだろうとも」


 くそぉ……このリュックじじいが……。まぁいっか。とりあえず頼んでからサオリさんとカーボを入れよう。


「ツクリさん」

「なんだね」

「この折りたたみ傘を入れてもいいですか?」

「うむ。ゆっくり入れるのだぞ」

「はい」


 よし。まずは第一関門突破だ。次は難易度が一気に上がるぞ。


「すみません。このサッカーボールも入れていいですか?」

「うむ。入るならよいぞ」

「ありがとうございます」


 よかった。これでずっと蹴りながら移動しなくて済む。


「……あれ?」


 安心したのは間違いだった。


「ふんっ! おらっ! くそっ!」

「おい貴様! やめんか! 入らないのは分かるだろ!」

「すみません! でも、もうちょっとで、いける気が……」

「ぐぬぅ。これ以上押し込んでみろ。貴様を骨になるまで食い尽くしてやるぞ!」

「やめますやめます! すみませんでした!」


 ダメだ、これで最後まで蹴り続けるのが確定した……。

 いや、待てよ? ここじゃないか? 魔王様の力を借りるのは。

 オトシモノの数はあと六個。

 カーボはちょっと例外だったけど、基本的に魔王様のオトシモノは次のがどこにあるか教えてくれるし、使える能力もある。

 うん。絶対に今だ。カーボを蹴りながら進むのは時間がかかりすぎるし。


「魔王様!」

「なんだいきなり大声を出して」

「ちょっと黙っててください。魔王様! 力を貸してください! 魔王様!」


 僕はできる限りの大きな声で魔王様を呼んだ。


「ごほっごほっ……ちょっと待っておれ」


 あれ? 今なんか食べてなかった?


「待たせたな」

「魔王様、今なんか食べてたでしょ?」

「何をバカなことを言っておふっ……ごほっごほっごほっ」


 これは絶対食べてたな。


「なんだその顔は? 信じておらんな?」

「もういいですよそれは」

「なぬ?!」

「とりあえず魔王様の力を貸してください」

「とりあえずって……まぁよい。して、サクヤよ。貴様は何が望みだ? ひとつ叶えてやろう」


 おー、なんか魔王様っぽい! これぞゲームって感じだわぁ。


「あのぉ、サクヤくん? 聞いてる?」

「あっ、すみません。えーっと……このサッカーボールって小さくできますか?」

「ああ」

「じゃあお願いします」

「えっ?」

「えっ?」

「あっいやぁ、そんなんでいいの?」

「あれ、もしかしてサイズ変えたらルール違反なんてことあります?」

「いや、それはないけども」

「じゃあお願いします。小さくっていっても、ハンドボールくらいのサイズでお願いします。リュックには入れたいけど、あとでなんかの役に立つかもしれないからある程度の大きさは残しておきたいので」

「そ、そうか。分かった。では少し離れておれ」

「はい」


 魔王様がパワーをめ始めた——ような気がする。両手をパントマイムみたいにぐるぐる回してるだけだから見た目では分からないけど。


「せぇぇぇいっ!」


 ポンッ……。


「終わったぞ」

「えぇ!? もう終わり? なんかもっとこう、派手なのないんですか?」

「サクヤ君はあれだね。ゲームのやりすぎだね」

「いやいやいや、魔王様ですよね? これじゃ地味すぎですよ」

「うっさいのぉ! 自分の願いが米粒みたいにちっさいからじゃボケェ!」

「す、すみません」


 だからなんで関西弁なんだよ……。


「まぁよい。これでわしの力を使えるのは残り二回だ。忘れるでないぞ」

「はい」

「ではな」

「ありがとうございました」


 魔王様はまたどこかに行ってしまった。いったいどこに行ってるんだろう。今度聞いてみようかな。


 このあとすぐにツクリさんに頼んで、小さくしたカーボを中に入れた。

 よし、これで次に進む準備は整った!

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