第5話 見つけるたびにさようなら
「そうだ。お前の名前なんて言ったっけ?」
「朔矢だよ。左東朔矢」
「じゃあサクって呼ぶな」
「あっ、うん」
「よし、さっさと次のを探しに行くか」
「どこにあるか分かるの?」
「魔王様はお優しい方だからな。俺にもヒントを残してくれてるんだ」
「へー。で、どこなの?」
「浅草だよ」
「浅草か。また行ったことないとこだなぁ」
「安心しろ。ここからそう遠くはない」
「ギンゴが案内してくれるの?」
「バカ言うな。俺は浅草なんて知らん」
「は?」
「浅草ってワードとここからそんなに離れてないってことが頭の中に流れてきたんだよ」
「あぁ、そういう感じ」(どこが頭なんだろ……)
「いいから行くぞ」
「あのぉ、ギンゴさんを連れていくのは僕なんですけど」
「黙って進め」
「はい」
この世界のやつらはみんなこんなに性格がおかしいのかな。だとしたら早く帰りたい。このままここにいたらこっちまでおかしくなっちゃうよ。
僕は早歩きで駅に向かい、再び電車に乗った。
もう誰もいないのは慣れた。無人で動くこの電車にも。
降りたいと思うまで止まらないから、普通より早く移動できる。ギンゴによると、これは僕だけ時間が進んでいることに対しての魔王様からのキュウサイソチ(?)らしい。
難しいことはよく分からないけど、魔王様には一応感謝しておこう。
——数十分ほどで浅草に着いた。
もう乗り換えも怖くない。といっても、案内板の文字が強調されているから迷うことはないんだけど。
「なぁ、サク」
「なに?」
「コイントスってできるか?」
「そんなの余裕だよ」
「じゃあここでやってくれ」
「なんで?」
「俺が地面に転がった方向に魔王様のオトシモノがあるんだよ」
「なんだ、それならそうと早く言ってよ」
僕はギンゴを思いっきりコイントスした。そして転がった方向に進んだ。
これを何度か繰り返していると、目の前に雷門が見えた。
「近いぞ」
「オトシモノ?」
「ああ。近くに気配を感じる。目をバキバキにして探せ!」
「なんでバキバキ?」
「いいからやれって!」
「分かったよ」
ギンゴに言われたとおり、目をバッキバキにして周りを見てみた。
すると、雷門の中に入って左にある赤い柱の下らへんに、何かが立てかけてあるのが見えた。
「あれかな?」
「ああ、あれだ。間違いない」
「なんで分かるの?」
「他に何かあるか? あれしかないだろ? だからだよ」
「なんなのその考え」
「はぁ? お前、魔王様の話ちゃんと聞いてないのか?」
「え?」
「ったく仕方ねぇやつだな。この世界はな、魔王様のオトシモノしか落ちてないんだよ」
「それってつまり……」
「そうだ。落ちてる物はイコール集めなきゃいけない魔王様のオトシモノだ」
「あっ、そうなんだ。てっきりいろいろ落ちてるものから探さなきゃいけないかと思ってた」
「魔王様がそこまでひどいことをするわけがないだろう」
「いや、ひどいことをするのが魔王様なんじゃないの? 普通そうでしょ」
「この世界は普通か? 違うだろ? だからお前の常識は通用しないんだよ」
「ふーん……」
このゲーム、思ったより簡単なのかも。
たぶんオトシモノがお助けアイテムみたいな感じで、いろいろできたり教えてくれたりするんでしょ。
しかもこの世界には魔王様のオトシモノしか落ちてないってことは、よくある宝探しゲームみたいに全然関係ないやつを見つけて時間を無駄にすることがない。
いけるいける! これなら早くクリアできそう!
「なにぼうっとしてんだ。さっさと拾ってこい」
「あぁ、そうだね」
デカい
世の中には僕の知らないことがまだたくさんあるんだな……。
「またかよ。早く拾えって!」
「うるさいなー、分かってるよ」
僕はオトシモノを拾った。
「これ、折りたたみ傘だ」
「見れば分かる」
「別にギンゴに言ったわけじゃない」
「へいへい」
「てかさ、魔王様ってこれ使うの?」
「は?」
「だってそうじゃん。これって魔王様のオトシモノなんでしょ? ギンゴもそうだけど、なんかおかしくない?」
「そんな細かいことは気にしなくていいんだよ! お前はただ言われたとおりに集めればいいの!」
「なんだよそれ……どうせ適当な設定なんでしょ? このゲームの」
「さぁな」
こいつ……。まぁいっか。気にしても意味ないし。
「時間だ」
「え?」
ギンゴがなんか言ったのは、気のせいじゃなかった。
「俺はここまでだ」
「はぁ!? それどういうこと?」
「おいおい、これも聞いてないのかよ」
「いいから早く言ってよ!」
「俺の出番は次のオトシモノが見つかるまでってことだよ。その次のやつも、そのまた次のやつもそうだ。つまり、見つけるたびに仲間が変わるってことだ」
「そんな……じゃあギンゴはどうなるの? これから先のオトシモノも、見つかったらどうなるの?」
「魔王様みたいに消えはしないが、ただの荷物になる。力もなくなる。もちろん、しゃべりもしない」
「……」
「ただ、絶対に捨てるなよ? 分かってると思うが、十個すべてそろってる状態じゃないと元の世界に戻れないんだからな」
「……うん」
RPGみたいにどんどん仲間が増えていくと思ったのに、毎回お別れしないといけないのか……。なんなんだよこのゲーム。
「じゃあもう行くな」
「うん」
「あと八個。お前ならできる。頑張れよ」
「ありがとう」
ギンゴはただの銀色の五百円玉に戻ってしまった。見た目が変わったわけじゃないけど、その瞬間はなんとなく分かった。
最初は五百円玉くそ野郎だと思ったけど、意外といいやつだったな……。
「よし、次も頑張ろう」
僕はギンゴをポケットにしまった。
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