第4話 聞こえるはずのない声

「もしかしたら勘違いをしているかもしれないが、わしとはいったんここでお別れだ」

「え?」

「その顔、やはり思っていたことと違うようだな」

「それは……」

「サクヤよ。貴様はわしが何も言わないだけで、近くにはずっといると思っていたのだろう?」

「……はい」

「すまんがそれは違う。これから先、基本的にわしはゲームに干渉かんしょうしない」

「どういう意味ですか?」

「簡単にいえば、助けが必要になるまではわしはもう出てこないということだ」

「えっ……」


 じゃあこれからは完全にひとりでやるってこと? そんなの無理ゲーじゃん。なんだよ、せっかく仲良くなったと思ったのに……。


「覚えてはいるだろうが、わしの助けを使えるのは三回までだ。さびしいからといって、すぐに呼ぶでないぞ?」

「寂しくないですよ!」

「ふんっ、その意気だ。まぁ頑張りたまえ」

「ちょっと待って!」

「なんだ?」

「次のヒントはないんですか? っていうか、毎回ヒントがないと絶対クリアなんてできないんですけど」


 また自分で考えろって言うだろうな……。


「銀色の五百円玉」

「えっ?」

「そいつが次のヒントを教えてくれる」

「どういうことですか?」

「ようは新しい仲間ってことだ」

「仲間……」


 なんかRPGみたいだな。


「そうだ。もうひとつ言っておくことがあった」

「なんですか?」

「その五百円玉だが、必ず最後まで持っておれ。五百円玉に限らず、わしのオトシモノは最後まで持っているのだ」

「えー」

「当たり前だろ。最後には返してもらうのだ。わしのだからな」

「まぁたしかに」

「それと、ひとつでもなくしたら二度と元の世界には戻れないから、そこは注意するのだぞ。ではな」

「あ、ちょっと!」


 魔王様はゆらゆらとれながらどこかに消えてしまった。


 最後に言ってたこと、あれはめっちゃ重要だ。とにかく、絶対になくしちゃダメだ。

 でも、これからどうしようかな……。


「おい、そこの坊主ぼうず

「えっ?」


 なんだ? なんか聞こえた気がしたんだけど。

 でもどこにも人はいないし、魔王様も消えたから声なんて聞こえるはずないんだけど……。


「聞こえないのか? お前だよ、お前!」

「うわっ、しゃべった?!」


 声を出していたのは、僕が持っていた銀色の五百円玉だった。


「やっと気づいたか、バカめ」

「いや、いきなり口悪すぎだろ!」

「そりゃそうなりたくもなるわ。魔王様が言ったろ。俺が次のヒントを教えるって」

「そうだけど、お金がしゃべるとは思わないじゃん」

「今さらなんだよ。お前、あの魔王様と話してたんだぞ? 魔王様だぞ? えらいんだぞ? そっちのほうが驚きだろ」

「えっ、そうなの?」

「かぁぁぁ、これだから素人しろうとさんは困るんだよ」


 なんなんだよこいつ。マジでうざいんだけど。こんなのが仲間なの?


「まぁいい。俺が教えてやろう」

「はぁ」


 この五百円玉くそ野郎やろうは、ここから三十分くらいずっと話し続けた。

 とにかく魔王様が偉大なんだということを、過去の出来事から引っ張ってきて話す。それがほんとにずっと続いた。


 僕は頭がおかしくなりそうだったから、途中からは聞いてるフリをした。

 あんなの聞いてても、どうせなんの役にも立たないから。


「ふぅ……分かったか? どれだけ魔王様が偉大だってことが」

「はい、分かりました。ためになる話でした。ありがとうございました」

「おう。分かればいいのだ、分かれば」


 なんか急に眠くなってきたな……。疲労はあるって言ってたけど、寝ることもあるのかな。


「あの、五百円玉さん」

「俺のことはギンゴと呼んでくれ。色の百円玉だからギンゴだ。分かったな?」

「うん」

「で、なんだ?」

「魔王様がこの世界に疲労感は残したって言ってたんだけど、寝ることもあるのかなって。なんか眠くなってきてて」

「なに!? 眠くなってきただと? そいつはいかん」

「えっ、なんかやばいの?」


 ギンゴは顔がないからどんなにやばいかが分からない。けっこうめんどいな……。


「ああ。この世界で眠っちまったら、現実とは違ってそれはそれは深い眠りに入っちまう」

「別にいいじゃん。疲れも取れるだろうし」

「アホか! 時間の感覚がおかしくなっちまうんだよ。ただでさえ記憶がおかしくなってるのに、ここで眠っちまったらもっとおかしくなっちまう。そしたら、どれだけ時間が経ったか分からなくなるんだ」

「ほぁ〜、なるほどぉ」


 ビリビリッ!


「いってぇー!」


 いきなり全身がビリビリした。電気ショックをくらったみたいな感じだ。


「なんだよこれ……」

「お前が眠らないように電撃をかましたんだよ」

「電撃? 死んだらどうすんだよ」

「安心しろ。頭がスッキリするレベルだから死にはしない」

「ほんとかよ……めちゃくちゃ痛かったんだけど」


 そのあとギンゴが分かりやすく説明してくれたけど、このゲームはルールが多すぎて全部を覚えられそうにない。


 しかもオトシモノは絶対になくしちゃダメだから、どんなにうざくても仲間にしないといけない。


 はぁ、とんでもないゲームにまれちゃったなぁ……。

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