絶対諦めない成り上がり聖女+なんでもすぐに諦めちゃう天才賢者

いぎたないみらい

能無し&根性無し

才能が無いと言われた少女は言った。

「ならば才能がつくまで修行あるのみ!!」


王宮へ来いと言われた少年は言った。

「さ、逆らえないですし、行きます………」



才能がなかった少女は修行しつくし、念願叶って聖女となった。


王宮へ連れてこられた少年は、仕事をしまくって賢者となった。



気合い任せの聖女は追い出された。

「お前のような才能の無い奴が聖女の座に座る資格はない!!!」と。


天才だった賢者は追い出された。

「平民であるお前なんぞに、賢者の肩書きは相応しくない!!!」と。



偶然にも2人は同じ年、同じ月日、同じ時間に、同じ場所へ追放された。

「またこの地に足を踏み入れるようであれば、即刻処刑だ!!!!」と。言い渡された言葉まで同じだった。



かくして出会った2人はそのとき、こう思っていた。

(ふっっざっけんじゃないわよ!!!こんのクソヤローどもがあああぁぁぁぁ!!!!)

(ああ、終わった……。僕の人生終わった…

…。さよならぴよちゃん、元気に生きて…)



一通り憤慨した聖女は隣の者に気付いた。

「ぎゃぁぁぁぁーー!!何してんのぉぉぉーー!!?」


驚いた聖女は、咄嗟に彼の首に突き立てられた小刀を奪い取った。


小刀を奪われた賢者は彼女を説得した。

「僕みたいなクズに生きる価値なんて無いんです!!お願いです!死なせて下さい!!」


賢者は聖女に、土下座で必死に頼み込んだ。



聖女は言った。

「嫌だよ!目の前で自殺されちゃトラウマになるもん!!」


賢者は言った。

「確かに!配慮のできないゴミで、申し訳ありません!!」



賢者は聖女に「もっと離れた場所で死にます!」と言い、その場を離れようとした。


聖女は立ち去ろうとする賢者のローブを引っ張って、その場に引き留めようとした。



―――グルルルルル…………

―――クキュルルル…………



「「…………………………………………」」

2人の腹の音が同時に鳴った。どちらかともなく頬を紅潮させた。



聖女と賢者は隣国の、国境に一番近い町に向かい、最初に目に入った食堂で食事をした。



「なるほろ《なるほど》……、ムグ。ほんなこおが《そんなことが》………モグモグ」

「あなはこほ《あなたこそ》……、ハフ。ひほいめにあっへ《酷い目に遭って》……、モゴモゴ」


リスのように口に食べ物を詰め込んだまま、会話をする2人。食堂にいる者たちは、珍獣を眺める目で、あるいは小動物を見る目で聖女と賢者を遠巻きに見ていた。



食べ終わった聖女は言った。

「自殺するのなら、その命。私に預けてみませんか?」

「…………あなたに?」

「はいっ!」


支払いを済ませた賢者は少し考えた。

「………そうですね。それもいいですね。ご迷惑おかけします」

「どんと来い!です」



2人は食堂を出て、宿を探すことにした。



食堂の店主におすすめされた宿に行く途中で、強盗に出会った。

「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ………」

「ハッ!数えても意味ねーよ?お嬢ちゃん」

「有り金、全部寄越せや」


賢者はうつむき震え、聖女はキョロキョロと強盗の数を数えていた。

「前2人、左右1人ずつ、後ろ4人、かな?」

「なぁ、お嬢ちゃん。コイツより俺らの方がタノシませてやれるぜ?」



嗤われた賢者の様子を見て、聖女は言った。

「あ、間に合ってま~す。ダイジョブで~す」


断られた強盗は悪態を、つけなかった。

「な゛!?んだこれ!!」

前後左右の強盗たちは、自在に動く土の触手で縛り上げられていた。



下っ端が叫び、リーダー格の男に合図を促す。

「アニキ、魔法だ!あの男を殺せば魔法は解ける!!」


「おい!やれっ!!」

リーダー格の男は叫んだ。


ヒュンッッ……!

2本の矢が背後から賢者を襲う。



賢者は微動だにしなかった。

矢は賢者から5cm離れたところで止まり、カラン…と小さく音をたてて落ちた。


「ありがとうございます、聖女さま」

「いえ、どういたしまして賢者さま」


聖女は手を組み、祈りを捧げていた。

強盗たちは2人の言葉に驚愕し、賢者に矢を放った者は絶望した。


片や、魔法使いの頂点に立つ賢者。

片や、治癒や守護に精通する聖女。



強盗たちが太刀打ちできる相手ではない。


それに気付いた者は逃げ始めるが、遅かった。

四方八方は聖女の結界によって囲まれてい

る。


ただ一人だけ、状況を飲み込めていない。



「お前らぁ!ナニをビビってやがんだ!?たかがひょろっちい野郎と女じゃねぇか!!」


リーダー格の男は賢者や聖女がどんなものか知らなかった。


男の言葉を聞いた部下たちは、この男に付いて行っていた自分を怨み、男に失望した。



抵抗する気も失せた強盗たちは、なす術もなく賢者の魔法によって捕らえられ、大人しくお縄についた。



宿に着いた賢者と聖女は、最後の1つに残っていた2人部屋を借り、各々のベッドで眠りにつくことにした。



ベッドに潜り込んだ聖女は言った。

「そういえば自己紹介してないですね。私はカシィク。元聖女です」


眠気で頭も口も回らない賢者は言った。

「んー……。………ぼくは、ヴィースイ…。けんじゃ、れ………スゥ……」


賢者は寝息をたてて寝た。


「………おやすみなさい、賢者さま」

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