第2話

 アプリ内の機能で撮影されたであろう、短い動画があった。

 いつの日だったか、下駄箱に空書きで出された土で靴が汚されていた映像。


「これって貴明だよな? 隠し撮りされてんぞ」

「俺なんだけど……下駄箱汚されてた時って、そもそも何で撮る? ムカつくなら仕掛けに引っかかって終わりだろ。証拠映像残す意味」


 そう笑う貴明に、「めちゃくちゃ恨まれてんな」と榊はただ感想を言った。


 短い動画は繰り返し流れる仕様で、繰り返しみていた二人は、ある言葉に気づく。


〝さよならを言う前に〟


 それが出たら動画は終わっていた。


「どういう意味これ」

「さぁなー、いじめをされた側のいう、さよならってどういう意味だろうなー」

「ちょ、ちょっと待て、俺がいじめてたって?」


 榊の想像に、貴明は焦ってきて、思わず肩を掴みにいった。


「恨まれてるかもしれないことがあって、下駄箱に悪戯だから、いじめっていう結論をしただけだ」


 指折り数えて消えない事実から、榊はひとつの答えを出していた。

 肩を掴んでいた手、貴明は何かが抜けた表情になり、手もするんと落ちた。


 拡散された動画、貴明が確実にやっているという決定打が無いゆえに、悪い噂を耳にすることはなかった。

 少し映っているせいか、何があったのか興味は持たれた。


 流れてくる同じ人の投稿。いじめがテーマというだけでみている人が大半の内容ではあった。


「何事もなく過ごせてる。よかったな、貴明」

「榊のせいで、一瞬心臓止まるかと思ったけどな」


 机の落書き、ゴミ箱からみつかる教科書、汚された体操着。そのあとに、さよならを言う前にと締めくくられる。

 以前にいじめを受けた人か、現在進行で酷いことを受けている人かは分からない。動画は共感を呼び、よく目につくようになっていた。


 制裁を。動画に寄せられたコメントに、制裁を願う気持ちが書かれていた。それを見た榊は、「ここまで盛り上がってくると、ヒーローにでもなりたかっただけかね?」そう呟き、パック飲料を飲む。


「あぁ! それだよ。そういう動画を作りたかっただけじゃん?」


 安心が欲しいのか、貴明は榊がぽつりと言ったことに慌てて乗っかる。

 昼休み、中庭での昼食を終えて、二人は校内へと戻る。廊下、榊の視線が下にいった。


「榊?」


 よくよく見る仕草をする榊を真似て、貴明も廊下を見る。何か貼られているような、膜のようなものが確認できた。

 榊は戸惑いも見せずに片足を突っ込もうとする。しかし、膜は剥がれもしないし、消えもしない。


「ん」

「んってなんだよ」

「おれで無理なら貴明かと思って」


 じりじりと片足を近づけていって、カクンッと足は落ちていきそうになった。

 片足だけならいくらでも踏ん張りが効いたかもしれないが、榊が咄嗟に腕を掴みにいく。


「空書きした文字って陥没か? やっば」


 落ちかけた足を上げ、何もされてない平らなところを歩き身体のバランスを整える。

 空書きを行う人は、ターゲットを見ていないといけない。

 貴明は、周囲を見渡した。しかし、人の姿は確認できない。


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