第8話私の好きな先生1

私の名前は、矢口りさ。高校2年生だ。


進学校なので、大変な部分もあるけれどそれなりの高校生活を楽しんでいる。


お昼休み、相方の坂本千夏とサンドウィッチを食べながら話していた。


「りさ〜、あんた、彼氏ホントに作らないの?」


と、坂本はお弁当を食べながら言った。坂本のお母さんは毎日、かわいいお弁当を作ってくれる。だけど、わたしの母親は夜勤の仕事の多い介護職なのでいつも、コンビニの惣菜パンかサンドウィッチ。


レタスとハムのサンドウィッチをカフェオーレで流し込む。


「だって、カッコいいヤツいないじゃん」


「2組の田嶋君とか、このクラスだって、藤岡君がいるのに……。何、考えてんの?」


「千夏は、高校生の彼氏で満足なの?福満君で……」


「それなりに、楽しいよ」


わたしはグラウンドを眺めていた。いつも、1人でグラウンドの端のベンチで弁当を食べる人を待っていた。


……来た!


小園先生。歳は48歳で、弓道部の顧問だ。弓道なんて、全然分からないけど。

腹が出て、頭はハゲ上がり、コンビニ弁当を豚の様に食い散らかす先生。


「ねぇ、見て!千夏。小園先生どう思う?」


「えっ、小園?……オッサンだよね。それも酷いオッサン。ハゲだし」


「かっこ良くない?」


「どこが?」


「大人って、雰囲気だしてるよね」


「ダッサ。あのオッサン、ベンチに落ちた唐揚げ食べてるよ!」


「……食べ物は、大事にしなきゃ。わたしは、大人が好きなの」


「りさっ!この後、保健室行こうよ。キャサリンに人生相談しようよ!」


と、坂本は玉子焼きを食べながら言った。

キャサリンとは、保健教諭で50代だが、ダイナマイトボディーなので、あだ名はキャサリンだった。


2人は食事を済ませて、保健室へ向った。


「ねぇねぇ、キャサリン先生、りさが小園先生がカッコいいらしいよ!」


と、坂本はキャサリンに言った。キャサリンは、何やら本をめくりながら、


「矢口、アンタ、人をみる目があるね。そうなの、本物のかっこいい人は外見じゃないの。中身よ!千夏っ!矢口を見習いなさい。先週も、小園先生にバーに連れて行ってもらったら、ターキーをストレートで飲むの。あっ、ターキーって、お酒。分かるかな?バーボンって?」


2人はバーボンを知らないので、不思議な顔をしていた。


「顔、顔、あんたら、オランウータンみたいな顔して。兎に角、強いお酒なの。それを、小園先生は水みたいにカッコ良く飲むのよ。でもね、あなた達とは、歳が30歳も離れているから、彼の恋愛対象にはならないわね。しかも、小園先生は女性には困って無いらしいし」


それに、矢口がいち早く質問した。


「キャサリン先生、小園先生には何人も彼女いるの?」


「いるわよ」


矢口は失望した。


「自宅にメスの金魚、20匹飼っているらしいわよ」


矢口は頭がヒートした。

「金魚?メス?人間の女性は?」

「……アハハハ。あの人に人間の女性は近寄らないわよ」

「でも、キャサリン先生は、この前、一緒にお酒飲んだんでしょ?」

「彼は、人を選ぶの。しかも、的確に。ま、矢口、あなたがどんなに小園先生を好きになっても、恋は成就しないわよ」


キャサリンは、本をパタッと閉じた。


「だってさ、りさ。アンタ、頭、大丈夫?」


「大丈夫だけど……」


放課後、矢口と坂本は帰る手段が違うので、坂本は最寄りのバス停へ、矢口は電車の最寄り駅へ向った。


夕方、6時。今日は、ちょっと、坂本と喋りすぎた。ま、親はちょっと遅くなっても怒らない。


喉が渇いた。

矢口は自販機の前に立った。

「おっ、君は世界史を選択している、矢口君だね」


振り向くと小園先生だった。


彼は小銭を自販機に入れて、

「好きなものを選びなさい」

と、言った。矢口は、突然の事で無意識に紅茶を押した。

小園先生は、アイスコーヒーだった。


方向が同じだったので、ベンチで2人して飲み物を手にして、電車を待った。田舎の電車は30分を1本だ。


額の汗を拭きながら、小園先生はアイスコーヒーを飲んだ。


「矢口、高校は楽しいか?」


「……い、色々あって楽しいです」


「彼氏はいるのか?」


「いません」


「それが、良い。受験ではカップルの男が落ちるのはジンクスだからな」


2人は、話しながら電車を待つ事にした。


まだ、初夏の生ぬるい気温の夕方だった。

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