第2話オジサンの癖1
オレの名は、
会社では、医薬品のルート営業を担当している。
金曜日、何とか定時で仕事が終わり、帰って録りだめしていた、ドラマを早く見たいと思っていたところ、係長の飯田が近寄って来た。
嫌な予感がする。
「高宮君。今夜、一杯どうだい?総務課の女の子も何人か参加するよ」
マスクをしていても、飯田の口臭はキツいものがある。
「か、係長。今夜は……」
「分かってる。でも、今夜の飲み会は山口専務にも参加して頂く。若者の意見を聞きたいそうだ」
そこまで、言われてしまうと、オレの出世の道は遠のくだろう。
今夜、自分なりの営業方針を熱く語り、ポジションがアップすればもう、下らない飲み会の誘いも少なくなるだろう。
会社のエントランスでオレと同期の三村、総務課の女の子3人、そして飯田係長と山口専務が集合して、飲み屋に向かった。
道中、係長と専務はずっと先週のキャバクラの話しをしていた。馬鹿なオッサン連中だ。
三村と総務課の女の子は、仲良く喋り、オレは無言だった。
馬鹿なヤツラだ。
今夜の飲み会で、オレは確実にポイントを取る。出世のためだ、馬鹿な連中と飲む酒は今夜で終わりにしたい。
御一行様は、店についた。
『きも善』
大衆居酒屋で、焼き鳥が美味しいらしい。係長が専務にそう話しているのをオレは聞き逃さなかった。
係長が予約を入れていたそうで、個室の座敷席に店員に案内された。
まだ、残暑の厳しい夏の終わり。
上座に専務が座り、両脇を総務の女の子2人座り、オレと三村は下座。残りの女の子と係長は真ん中の座ぶとんの上に腰を下ろした。
専務と係長は冷たいお絞りで、「はぁ〜、気持ちいいな」と、手を拭き、顔を拭いた。
……最悪のオッサン達だな。係長に至っては、首すじまでお絞りで拭いている。
店員がファーストドリンクのオーダーを取りに現れた。
係長が、「取り合えず、生7つ」
と、言った。
オレはビールなんて飲みたくねぇよ。
居酒屋での一杯目は、ハイボールを飲みたいんだ。それから、コーン茶割り。
7人は乾杯して、生ビールを呑んだ。
「君達、今夜は無礼講だ!ドンドン飲んで、私に若い情報を教えておくれ」
と、専務が言った。
係長は、二杯目の生ビールを注文していた。
焼き鳥の盛り合わせが出てきた。
係長は串を一本掴むと、焼き鳥をクチャクチャ音を立てながら食べている。
最悪だ!この飯田はクチャラーだった。
三村はおとなしく、お通しの枝豆を食べながらビールを飲んでいた。
専務が無礼講と言うもんだから、女の子達は美味しいスイーツの話しをしていた。
バカな奴らだ。
三村と飯田はクレーム処理の話しをしていた。意外と三村は楽しそうだ。
オレはハイボールを飲みながら、専務に僕の描く営業方針の話しをするために、心の中で整理した。
くっせぇ〜。専務は芋焼酎を飲んでいた。
しかも、グラスを持つ手の小指を立てていた。
オレは、お手洗いに立った。
係長も付いてきた。
オレはまだ、会社の本当の怖さを知らなかった。
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