第2話オジサンの癖1

オレの名は、高宮暁斗たかみやあきと。歳は25歳。大卒で今の会社で働きだして、3年が経つ。

会社では、医薬品のルート営業を担当している。

金曜日、何とか定時で仕事が終わり、帰って録りだめしていた、ドラマを早く見たいと思っていたところ、係長の飯田が近寄って来た。

嫌な予感がする。

「高宮君。今夜、一杯どうだい?総務課の女の子も何人か参加するよ」

マスクをしていても、飯田の口臭はキツいものがある。

「か、係長。今夜は……」

「分かってる。でも、今夜の飲み会は山口専務にも参加して頂く。若者の意見を聞きたいそうだ」

そこまで、言われてしまうと、オレの出世の道は遠のくだろう。

今夜、自分なりの営業方針を熱く語り、ポジションがアップすればもう、下らない飲み会の誘いも少なくなるだろう。


会社のエントランスでオレと同期の三村、総務課の女の子3人、そして飯田係長と山口専務が集合して、飲み屋に向かった。


道中、係長と専務はずっと先週のキャバクラの話しをしていた。馬鹿なオッサン連中だ。


三村と総務課の女の子は、仲良く喋り、オレは無言だった。

馬鹿なヤツラだ。

今夜の飲み会で、オレは確実にポイントを取る。出世のためだ、馬鹿な連中と飲む酒は今夜で終わりにしたい。


御一行様は、店についた。

『きも善』

大衆居酒屋で、焼き鳥が美味しいらしい。係長が専務にそう話しているのをオレは聞き逃さなかった。


係長が予約を入れていたそうで、個室の座敷席に店員に案内された。

まだ、残暑の厳しい夏の終わり。

上座に専務が座り、両脇を総務の女の子2人座り、オレと三村は下座。残りの女の子と係長は真ん中の座ぶとんの上に腰を下ろした。


専務と係長は冷たいお絞りで、「はぁ〜、気持ちいいな」と、手を拭き、顔を拭いた。


……最悪のオッサン達だな。係長に至っては、首すじまでお絞りで拭いている。


店員がファーストドリンクのオーダーを取りに現れた。

係長が、「取り合えず、生7つ」

と、言った。

オレはビールなんて飲みたくねぇよ。

居酒屋での一杯目は、ハイボールを飲みたいんだ。それから、コーン茶割り。


7人は乾杯して、生ビールを呑んだ。


「君達、今夜は無礼講だ!ドンドン飲んで、私に若い情報を教えておくれ」

と、専務が言った。

係長は、二杯目の生ビールを注文していた。

焼き鳥の盛り合わせが出てきた。


係長は串を一本掴むと、焼き鳥をクチャクチャ音を立てながら食べている。

最悪だ!この飯田はクチャラーだった。

三村はおとなしく、お通しの枝豆を食べながらビールを飲んでいた。

専務が無礼講と言うもんだから、女の子達は美味しいスイーツの話しをしていた。


バカな奴らだ。

三村と飯田はクレーム処理の話しをしていた。意外と三村は楽しそうだ。


オレはハイボールを飲みながら、専務に僕の描く営業方針の話しをするために、心の中で整理した。


くっせぇ〜。専務は芋焼酎を飲んでいた。

しかも、グラスを持つ手の小指を立てていた。

オレは、お手洗いに立った。

係長も付いてきた。

オレはまだ、会社の本当の怖さを知らなかった。

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