言葉以外
「言葉じゃない」
私はあの出来事があった翌日、そんなことを考えていた。
私がせがんだ結果もあってか、病院の先生からは看護師の付き添いと車椅子で参加をすれば卒業式に出てもいいって言ってくれたんだ。突然の嬉しさが、心を温かくしてくれたな。
ただ、声も出なければ、文字を書くこともできない私にはどうやったら楓真に告白できるのだろうと必死に考えていた。なかなか答えが出ない。文字ボードで伝える? 手話?
……どれも違う。
私は悩んで悩んだ末に、ふとある道を見つけた。
――楽器で伝えればいいじゃん。
そう、私が楓真と仲良くなったきっかけを作った1つであるチェロを使うんだ。確かに私は何かを持つのが難しい。文字を書くなんて最も。でも、全く持てないわけではない。続くかわからないけど、それを演奏すると心の奥で誓ったんだ。
演奏するものはかつて楓真が即興で作った恋愛ソングを。
「即興で恋愛ソング作っちゃったな。これ、琴都にあげるよ。もし、琴都がさ、本当に好きな人ができたらこの曲、演奏してあげな。まあ、もうその頃にはこんなやり取り、忘れてると思うけどね」
そういいながら楓真がくれた恋愛ソング。
忘れてないよ。
私に好きな人ができたから演奏するよ。
私の今できる力で。
……そんなこと、当時の私は思っていたかな。
ある意味、私は奇跡の一瞬を紡いでいたのかもしれないな。
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