卒業式
ここからは、卒業式の思い出を語ろうかな。そう、クライマックス。
私は体育館の隅の方で高校生としていられる最後の時間を静かに味わっていた。皆の涙もはっきりと見えた。卒業証書ももらったけれど、私は車椅子を押されてステージに上がることなく、ステージの下で受け取った。こんなことおそらく初めてだろう。でも、私は嫌じゃなかった。むしろ、その瞬間を特別に感じていた。
時間は流れる。光も流れる。私の発表の時間は瞬く間に迫る。
順番になると、私は再びステージの下に行く。そして、チェロを持つ。今から告白する。言葉が無理なら音で伝えよう。
「琴都さんで『親友に伝えたいこの想いを、チェロの演奏で』です」
先生と目があった。私はそれに力強く頷いた。先生とはひらがなボードを使って事前に打ち合わせをしていた。そんな先生も見守ってくれる中、私はゆっくりと弾き始める。震えた手で。
その時は、おそらく頭が真っ白だった。
私の奏でる音がこの世界に響き渡っている。拙い音やかすれた音が。
私は時々つまりながらも、演奏を必死になって続けた。前を見ることはできなかったけれど、きっと皆、温かい目を向けてくれていたんだと思う。そして楓真からの視線を感じた。後日聞いたけれど、私が弾き始めた瞬間、楓真の景色が変わったと言っていた。
気持ちいい。
ただ、途中で音が止まってしまった。手が動かなくなったのだ。2分間の沈黙が続いた。泣こうかな。逃げようかな。やっぱりだめだったのかな。現実はうまくいかない。そういうことを知った。そう思った時、現実は意外なものを見せてくれた。
「ほらっ」
現実はいい意味でも裏切ってくれるようだ。楓真が私の側に駆け寄ってくれて、私と一緒に告白ソングを弾いてくれたのだ。最後まで一緒に奏でてくれたのだ。
最後まで弾き終わると、私はたまらず涙が出てしまった。何も喋れないからこそ涙で伝えた。そして、皆からは拍手でこの曲の感想が伝えられた。
「告白の答え、知りたいよな」
その楓真からの声に私はゆっくりと頷くことで答える。
そして、彼は私の右手の小指を握ってくれたのだ。これが答えと言いながら。だからこそ私は、そこが一番好き。
言葉にしなくても伝わることはあることに気づいたんだ。
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