第2

「東京都練馬区立大泉第二小学校から来ましたっ!柚木冬流ゆずきゆるですっ!好きな色は水色と白、趣味は読書と木登り、特技はピアノ、好きなスポーツはバスケです!これから約2年間よろしくお願いします!」

全員初めましてのクラス。

ぽっちゃりしてる担任の女の先生。

目の前に立ってる転校生を見て、囁き合ってる女子たち。

興味深そうに転校生を眺める男子たち。

そんなみんなの前に立って、私は自己紹介する。

いかにも明るくて元気で、少しあどけなくて幼い、妹みたいな女子に見えるように、言葉を言う。

前の学校の人気者陽キャ女子の鈴木昭子すずきあきこと少し変えて、裏表のない、ピュアな感じを出すようにする。

それだけで、みんなは柚木冬流という人間は、元気が有り余っているような妹みたいな性格で、裏表のない、信用できる人間、という印象を与えられる。

そのことは、目の前の新しいクラスメイトたちの変化していく表情からも確認できた。これで、少なくとも、元いじめられっ子、とか、いじめるのにふさわしい子、とかそういう印象を持たれることはない。

ここでは、なんとかいじめられずに過ごせそうだ。

もう大二小にいた頃のような経験は、したくない。

だから。

いじめられずに済むなら、私はどんなに辛い演技にだって、耐えてみせる。

卒業まで、私のキャラを、演じきって見せる。

いじめの酷さに比べれば、演技の疲れなどどうってことない。

顔には思いっきり無邪気な笑顔を貼り付けて。

私は、私のために新たに作られた席へ、歩いて行った。

私の席は、一番後ろの列の端っこだった。

左隣に座っている男の子は背が小さくて、可愛い顔をしていた。

この子は、仲良くしといた方が、いいかもな。

そう思って、私は自己紹介をしようと、顔を左隣へ向ける。

思いっきり無邪気で天真爛漫でピュアな笑顔を貼り付けて。

「ねぇっ」

声を弾ませる。

私の声はもとから高いから、声を弾ませると、普通にしている時の、何倍も可愛い声になる。

男の子が驚いていて、それでいて少し嬉しそうな顔で、こっちを向いた。

「私、柚木冬流、3月31日生まれ、ただいま9歳!友達になろうよっ!」

にっこにこの笑顔で言う。

男の子も笑顔になった。

「僕、箏澤明人ことざわあきと。友達になろ。よろしく。」

そう自己紹介して来た。

ここでは、上手くやっていけそうだ。

窓の外で散らつく雪を見ながら、ふふっ、と笑いがもれる。

私は、ここで私のキャラを、見事に演じて見せる。

自信がみなぎる。

胸を張る。

先生の話に耳を澄まし、わくわく、という顔を作る。

雪が降り始めた1月下旬、私の平和な学校生活の幕が、ようやく上がった。


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