第2話 お別れの言葉
僕は殺される。
「白の烏」の仲間たちに。
いや、彼女たちは僕のことを一度も仲間と思ったことはないかもしれないけれど。
「命落としのダンジョン」から出口に向かって全力で走る。
生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい!!!
「はっ、はっ、はあ、ああ、はぁ、!!!」
僕は、必死で逃げる。ああ、見えた!出口!出口ぃいいい!!!
ボキリッ。
「ぎゃああああああああああああああ!!!!!」
余裕で僕の背後にまで来ていたガクロが、赤子の手をひねるように、僕の右腕をかるく掴んで、ありえない方向に折った。Aランククラスの武道家なんて、ゴリラに等しい。肉体強化魔法もかかっているガクロの筋肉は、並みの男じゃ到底かなわない怪力なのだ。
ショートカットの赤髪をかきあげ、ガクロがケラケラ笑う。
「めっちゃいい声で鳴くやん、濡れてまうわ」
笑いながら、今度は僕の左腕を強化された正拳でこなごなに粉砕した。
「はがああああああああああああああああああ!!!!!」
「ウケる~(笑)」
嗜虐趣味に走るガクロの横から、マーサーが愛刀・豹刑丸を抜いて、僕の両足のアキレス腱をスパンと斬った。
「うわああああああああああああああああああああ!!!!!」
「うふ、逃げないでよ」
足!足!足!足!!!!!!僕の足が!!!動かない!!
「せっかく殺すんだから、大技で殺してあげるね★」
オレンジ髪のツインテールを揺らして、シータィが召喚詠唱をする。
「――地獄炎狗・ケルベロス――!!!!!」
魔法陣からケルベロスが現れ、獄炎の球体を放ってくる。
避けるすべもなく、僕の身体は全身大火傷となる。
「あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“!!!!!!!!!」
「氷結粉塵・アイスダスト!!!!!!」
魔法の師であるソクテナが、僕の炎を消し飛ばし、全身が冷気に覆われた。
「ガ、ガ、ガ、」
僕の意識は遠くなる。もう、死ぬ、んだ。
「
フィーノが僕の火傷、と凍傷、両腕とアキレス腱を治した。
え?
「まだ死ぬでない。チャーチャルが最後に言っておくことがあるそうだ」
「チャーチャル、さまが?」
「お前たち、チャーチャルの決めた手順を守れ」
「だって、逃げそうだったんだもん★」
「せやで。逃げるこいつが悪い」
「最期は私が全身斬り刻む約束なんだから、守ってよね皆」
クソババアたちが談笑している。心底むかっ腹が立つ。こいつらマジで。
「ごめんね、ユナ」
「白の烏」の絶対リーダー、チャーチャルが、神々しい眼差しで、僕を見つめた。
「チャーチャル様、はぁ、どうか」
ぺっ。
え?
チャーチャルが僕の顔にツバを吐いた。
「勘違いしないでほしいの。あんたが死ぬのは、私たちのせいじゃない。使える人間を私たちは殺さない。あんたが使えない、ド・低・能・美・容・部・員・だから殺すしかなくなったんだからね。私たちを恨むのは、とんだお門違いなんだから、フフフフフフ。これでお別れの言葉は終わりっ。マ~サ~、斬り殺しちゃってえ」
はあ?
これを最後に言いたかった?
なんだお前。
なんなんだよお前ら。
ほぼ無意識で、僕は、最期の力を振り絞り、自分に抗老化をかけた!!!!!!!!
「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
自分に抗老化をかけたことは一度もなかった。しかも体内にあるすべての魔力を使って。全身が青い光で包まれる。
「なに!?」
ババアたちが驚いている。叫びながら、俺はダンジョンを飛び出す。
あああああああああああああああああああああああああ!!!!
抗老化の効果はすぐにあった。走って逃げる身体がどんどん小さくなっていき、走ることが出来なくなり、そして最後、僕は胎児になった。
僕の小さな身体は、鬱蒼と茂る草むらの中に隠れた。魔力はゼロ、生命反応も限りなく無に近い。そのおかげで僕は、「白の烏」の粛清から逃れることができたのです。
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老人は、「白の烏」とすれ違った。誰かを探している様子だったことを、少しばかりいぶかしんだが、結局彼は、彼女たちに話しかけることなく、目的地である「命落としのダンジョン」に向かった。
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ボトッ。
杖を落としてしまった。
視力が著しく低下している老人は、地面を這うように杖を探す。
ん?
奇跡に近かった。たまたま老人の杖は、胎児となった僕の横に落ちていたんです。
「赤んぼう……?まだ、生きとるのか」
Sランクパーティーでスキル《抗老化》持ちの俺を口封じのために殺そうとしたクソババアども並びに腐った貴族諸君に告ぐ、断罪の日は近いぞ? ハチシゲヨシイエ @yosytomo
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