第13話 社宅に住み始める。

 特に大きなトラブルもなく、鍵の受け渡しや引越しの作業を終えた。


 これから住む3階建ての木造アパート。


 初めの想像が酷すぎたせいか、思ったほど悪くはなかった。


 外はブラウンとホワイトベージュのツートンカラー。シンプルモダンな雰囲気で意外といい感じ。


 帽子をかぶるように、てっぺんに三角屋根をちょこんと載せているのが可愛いらしい。


 中は10じょうのLDKと6じょうの洋室。


 バス・トイレ別、それに独立洗面台が地味に……いや派手に嬉しい。


「セキュリティがガバそうな点と、男が住んでる点と、3階までののぼりが大変な点と、周りが田舎な点と、アパートの名前がおかしい点以外はまぁアリかな。……ってマイナス多いな、おい」


 ほどきに飽きた私は、ホウブ様のぬいぐるみを抱きしめて、アパートの敷地まで降りていった。


「それにしてもデカい駐車場ついてんなぁー。無駄スペースにしか思えねぇ。半分ぐらい削って部屋広くしろよ」


 時刻は黄昏時たそがれどき


 帰宅した住民たちによって駐車スペースがチラホラ埋められていた。


 そのままアパートの敷地の外の通りまで出て、少しだけ辺りを散歩してみる。


「マジでショボいとこだな。小っちゃい建物しかねーし。店の入ったビルとかは?


 近くにセブ××××ンあるのはとりあえず救いか。私の生命線だしな。コンビニは。


 何か晩ごはん買ってこようかな?」


 私は部屋から出たついでにセブ××××ンに向かうことにした。


 西陽にしびが、私の頬や手の甲をジンワリ焼く。


(くそっ。こんなことなら日傘もってくるんだった。まぁー、顔は日焼け止め塗ってるし、少しぐらい平気か)


 あっという間に到着する。


 ここにもまるでスポーツのコートのような大きな駐車場がついていた。


 店に入ると、店員や客の視線が謎に私に集まった。


(なんだコイツら!? 大人の女がツインテールにフリルだとそんなにおかしいか!?


 東京だったらこのぐらいスルーだぞ? 田舎はすぐにじっと見てくるとか聞くけどマジだな。


――あ、もしかして、私の服装よりホウブ様の大きなぬいぐるみ抱いてるところが目立ってる感じ?)


 メロンパン、カフェオレ、それとおやつのグミを持ってレジに向かった。


 バッグを持ってきていない。財布がない。


 でもスマホのP××P××があれば大丈夫。


 それから、食べ物と飲み物の入ったビニール袋をさげて私はアパートに戻った。


 集合ポスト近くの壁に、建物の名前を記したシルバーの銘板めいばんが貼り付けられている。


『スイートハニー&クー・ドゥ・フードル大高Ⅲ』


 チッ。それを見た私は舌打ちをした。


「マジでなんだよ。チープなラブホみたいな名前しやがって。しかも長すぎて書く時ぜったい大変なヤツじゃんこれ。×んどけ」


 そういえば郵便物の転送ってもう始まってるんだっけ? 一応、ポストの中、確認しておこうかな?


 私はそう思って自分の部屋の302のポストのダイヤルを回そうとした。


「くそっ! 番号わかんねぇ!」


 テキトーにガチャガチャしてみたが、当然、開かない。


「たしかブレーカーのフタの裏に番号書いたシール貼ってるとかほざいてたな。覚えるのめんどくさいから帰ったら写真とっとくか」


 私はホウブ様の頭をナデナデしながら階段をのぼっていった。

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