第12話 車窓から東京の街並みを眺める
マンションの退去立会いを済ませた私は、新大阪行きの新幹線に乗車していた。
グリーン席の窓際。
リクライニングシートを浅く倒しながら、猛スピードで前方から後方へ流れていく東京の街並みを、ぼんやりと
「はぁ。いざ離れるとなったら妙に不安な気分になるなぁ。東京なんてゴ×! もうどうでもいい! とか思ってたのに。やっぱりココって特別なんだなぁ……」
私は安心を求めるように膝の上に置いたホウブ様のおすわりぬいぐるみを抱きしめた。
イベントで手に入れたお気に入り。
「ずっと私のそばにいてね。どこでも生きていけるのよ? 一緒なら」
それから東京での様々な思い出が、次々と頭の中を駆けめぐる。
(――くそ。オトコが絡んだやつばっかだな。……ま、そういう生活してたから仕方ねぇか)
初めはキャバクラから始まってイメクラ、デリヘル、ソープ、最後はパパ活。
どんどんディープな沼に沈んでいった。
(マジでどこにいた時もロクな思い出ねぇな。
あああああ! 忘れかけてたクソ客の顔が今になってチラチラしてきたじゃねぇか!
暴言ヤロー、乱暴ヤロー、無茶ぶり暴走ヤローは論外として、害はないはずなのに単純にキモくて無理な客とかいたなァ。
ソープ時代に他の嬢も遭遇したとかで盛り上がった“何もしない客”とかその典型だったなァ。
あえてそうして恩着せがましくドヤってくる勘違いク×。
なーにが『時間いっぱいそこのベッドで寝ててもいいんだよ〜? 何もしなくていいなんて最高でしょ^_^』だよ。
そんなわけあるかボケ!!!
ジメジメした店なんぞに通って、得体の知れない男とくっそせっまい空間共有してる時点で、こっちはもう苦痛タイム始まってんだよ。
プレイしようがしまいがあんな場所に拘束されて自由奪われてる時点で、ウンザリ仕事モード絶賛発動中なんだよ。手ェ止めるぐらいで簡単に解除されると思うな???
いい年した社会人のクセしてお前なんも仕事のこと分かってねぇんだな)
――って、こんなことを考えながらホウブ様なんて抱きしめてたら穢れが移ってしまう。
私はそう思い、ホウブ様のぬいぐるみをいったん隔離する事にした。
M××のピンク色のリュックの中に優しく入れてあげる。
このリュックはサイズが小さいので、今日はホウブ様専用のケースと化している。他の私物は別のバッグに入れて持ち運び中。
(ところで私の可愛いバッグちゃんたちは大丈夫かな???
ブランドものゴロゴロだぞ?
業者の連中が出来心で1つや2つ抜いたりしないかな???
さすがに一緒には移動できねぇんだよな。
ま、オススメされたレディース向けプランわざわざ回避したぐらいだし大丈夫か。
業者の中に女いねぇから、なにかの間違いで荷物あけられたとしても、価値わかんなくて放置だろ。
それより男の場合、心配なのは下着類と衛生品あたりだな。
でも、そっちもガチ梱包で対策したし、とりあえずオッケーか。
あとは呪物――。
蠱毒のミニ壺の中身とか逃げ出さないかな?
アレ生きてるよな? ぜったい。
その辺の街ん中にでも放たれたらヤベェ事なりそうだけど。
いろいろとしっかりしとけよ業者)
私はコンビニで買ったマウ×××××アのカフェラッテにストローを刺して吸った。
一息ついてテーブルに置く。
(それより風嬢時代に私の悪口『爆××』に書き込んだアホども×んどけよ。
今でもハッキリ覚えてんのとかあるぞ。
『みうてぃとかいうやつ下手だし若作りしてるしいいとこゼロ。しかもイケメン好きな身の程知らず。お前ごときが夢見れると思うな。キモ客に塩対応確実な地雷なんだからみんな絶対に指名すんなよ。うっかりフリーで出てきたらそっこーチェンジ! チェンジ!』
は? ×すぞ?
どうせこんなトコ誰も覗かないし好き放題書いてやろっ、とか思ってんじゃねぇぞ。
普通に見てんだよ。
爆××のせいでやめた嬢もいるんだよ。
お前ら性格事故りすぎな? 毎回毎回どんだけディスってくんねん。
てかアレ書き込んだの本当に客か???
客の男ごときに私がメンクイとか話したことあったっけ???
文もなんか違和感あったな。何気に他の客まで巻き込み煽りしてるし。
まさか待機所で話した嬢が嫌がらせで書き込んだんじゃねぇだろうな!?
アイツら私ですら心配になるバ×多いし、自演するにしてもフツーにシッポ出しそうだよな。
本指何本も抱えて普通にナンバー入りしてたから嫉妬されててもおかしくないのがこわいのだ⭐︎)
私は誰もいない前の座席をパンチした。
それからカフェラッテを一気に半分ぐらい吸い上げる。
(パパ活はアタリ引けばまだ楽だったな。
奇跡的にお茶だけで終わったり、わりかし良パパに遭遇したり。
小汚い貧乏Pに舐めに舐められて精神病んでる他の女とかツイッターで見てざまぁしてたけど、最後は私がそれになりかけてたんだよな。
24と25――。そんなに違うか?
女は年齢に敏感! とか馬鹿にする男いるけど、どっちがだよ。たかが1歳にうるさくできるのなんてお前らぐらいだぞ)
女を売るような仕事はやはり年齢がものをいう性格が強い。
稼ぎまくるスーパー美人だって夜の世界に長くいれば必ずどこかで需要の壁にブチ当たる。
私はそれが早すぎた気もするけれど……。
なにもかも世の男が女の年齢に対してシビアすぎるせいだ。それだけは間違いない。
(そういや太パパに見せかけといて太いのは腹だけとかいう完全に世の中舐めきったクソ野郎もいたなぁ。
アイツ、養豚場で働く女に告白されて付き合い始めたらしいじゃん?
知らんけど)
私はカフェラッテの残りを飲み干すとテーブルに突っ伏してプルプル震えた。
(ああクソ!!!
風俗だろうがパパ活だろうが、この私がゴ×溜めみたいな男の上で腰振ってたとか地獄すぎんだろ。
キモい作り声で媚びさせやがって。
×ね×ね×ね!!!
そういや風俗にくるイケメンはイケメンで厄介だったな。
明らかに出てんだよな。
俺かっこいいだろ? キモジジイばっかなのに俺みたいなイケメンがきてくれて嬉しいだろ?
みたいな雰囲気が。しかも中途半端なやつに限って。
こっちは超絶メンクイだぞ? お前ごときにトキメクかよ。
仮に私好みのイケメンが来たとしても、それはそれで、結局女買い漁るようなヤツなんだよなコイツ……って萎えるし。
だから風俗で会うイケメンは全員ゴ×ぃぃぃぃ!!!
良客はあり得ても良男はあり得ないんだよ)
私は頭をかきむしる。
ツインテールを結んでいるヘアゴムの小さなリボンの飾りが取れそうになる。
それが余計に腹立たしさを助長させた。
気分が落ち着いた時には東京を出て神奈川に入っていた。
後方ですっかり小さくなった東京を、車窓から食いつくように見つめる。
その時、私の頭の中に一人の男の姿が浮かび上がってきた。
何も知らない女子大生だった私を東京の色に染めた――プランセス&シャトーの――。
青いLEDビジョンのライトに横顔を照らされながら味わう
エレガントな本革シートの助手席に座りながら運転席の彼と分けあう甘い紙たばこのフレーバー。
艶のいいスーツに包んだ体から香るチュベローズの香水。
甘く、苦く、儚い、五感に染みついた記憶。
「
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