第11話 引越しの挨拶を調べる。
旅立つ数日前。
私は1つ気になった。
「そういや社宅って引っ越す時に挨拶的なのいる感じ?」
初めて東京に進学し、一人暮らしを始めた時のこと。
私に代わってお父さんが、手土産を持ってマンションの上下左右あたりの住人に挨拶をしていた。
そういうノリが必要?
今のマンションでは、そんなこと頭から飛んでて何もやってないけれど……。
「一応調べてみるか。まぁどうせ、社宅程度にそこまで気をつかう必要はありません! とかだろうけど」
テキトーにワードを打ち込んでネット検索してみる。
すると、どこかのマナー講師が書いた引越しの記事が上のほうに出てきた。
なんとなく読みやすそうだったのでタップする。
ページでは、年齢不詳の女の顔(アイコン)と謎のウサギキャラが、吹き出しを使って交互に引越しのマナーに関する会話を繰り広げていた。
「あー。こういう会話ライクなサイトよく見かけるよなぁ。読者ウケいいのかな?」
序盤のどうでもいい茶番は余裕で読み飛ばし、気になるポイントに目を通す。
「えーと、なになに……?」
『ふつうのマンションやアパートなどと違い、社宅の場合、社員同士の付き合いもあるので、よりシビアなマナーが求められます。引越しに際しては、可能なかぎり全戸に対して挨拶にうかがうようにしましょう! 粗品のお渡しも忘れずに!』
私は斜め上を見ながらイメージした。
何十もある部屋の1つ1つを回って、うやうやしく頭を下げながら、粗品を手渡していく自分の姿を。
「――は。このテルミとかいうBBAなにサラッとトンデモねぇこと言ってんだ?
全戸に対して挨拶??
アホか!!!
そんなこと私のキャラでやったら大問題だろうが。
明日は雨どころか世界滅亡篇スタートだろ。
ブッサイクな天使どもが私の頭の上で終末のラッパ吹き散らかすだろ。
オンボロ社宅なんて私がチャイム押した瞬間全壊だからな?
舐めんな!」
こんな訳の分からないページはブラウザバック。
代わりに他のサイトをあたる。
「そもそもマナー講師なんて信じねぇんだよ。どうせそれっぽいの考えてテキトーに押し付けてるだけだろ? そんぐらい私だってできるわ」
しかし。
それから10分後。
「どうなってんだ!? どこも似たようなことしか言ってねぇぞ!? くそ。ふざけやがって。――もう一件ぐらい飛んでみるか」
その後、偶然目に入った引越し業者のHPに入ってみる。
『――社宅であれば、全戸への挨拶回りが基本となります。それに加え管理人や、地域によっては自治会長への挨拶も考えておきましょう。持参する手土産も相手の立場に応じて――』
「自治会長!? 誰だソイツ!?
どこの会社だよ。更にこんなアホなことまで言ってくるのは。
……って!!!
ココ私が依頼したとこじゃねぇか!?
ふざけんな!
もう二度と頼まねぇからな!
あとでG××××eマップの本社あたりに星1レビューつけて成敗してやるから覚悟しとけ」
私はスマホをベッドに叩きつけた。
ピョンと跳ねて、床の上だかベッドの下だかに消えていく。
しぶしぶベッドの下を覗き込む。
あったので拾う。
「てか前にツイッターで一人暮らしの女は引越しの挨拶なんかしないほうがいいとか流れてきたな。防犯的に。
ここと違って社宅とかフツーに男も住んでんだろ?
全戸に挨拶とか、それこそ女が一人で暮らします、って宣伝して回るようなもんじゃねぇか。
フツーにヤベェだろ。
書いたヤツはなにそんな重要なことスルーしてんだ?
アホばっかのせいで危うくオオカミどもの目ぇ光らせるとこだったじゃねーか。
こっちは可憐な赤ずきんちゃんだぞ?
全力で保護しにこいよボケ」
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