第7話 呪具を整理する。(オカルト注意)
名古屋に向かう準備を私は少しずつ進めていた。
家の中の荷物をまとめたり、苦戦しながら公共料金の手続きをしたり。
今日は――。
「ふふふ♡ 私の可愛い子たち♡ 一緒にお引越ししましょうねぇ♪」
――
呪具をコレクションするのが私の趣味。いや、人生。
全部で4つある。
1つ。『丑の刻参り道具』
昔、A××××nを見ていたら『憎い奴とおさらば! 丑の刻参りフルセット!』というのがオススメに出てきたのでポチった。
2000円ぐらい。なんてお財布に優しいのだろう。
翌日には『藁人形1体、五寸釘2本、金槌1本、軍手1組』が届いた。
(呪いといえばやっぱり丑の刻参りなんだよ。他のとは知名度からして違うからな。もはや日本人の心の
2つ。『
口コミで知った占い師の婆さんのところに行った時、呪いに興味があると言ったら、占いとは別にその話で盛り上がり、オススメの呪具を10万円ぐらいで売ってくれた。
松ぼっくりは風水的に最凶らしく、それを腐敗した水(?)に
入れ物の純白の桐の箱には、呪いを封じ込める力があるようで、「ウカツに開けてはならぬ。“禍”が解き放たれるぞ」と忠告されたが、1度好奇心からフタをズラして中をのぞいてみた。
中には、この世の終わりかと思うほど真っ黒な松ぼっくりが1つ入っていた。
そして尋常ではないほどの異臭を放っていた。
それはまるで
でも不思議なことに、私が慌ててフタを閉めると、あれほど強烈だった臭いが一瞬で消えた。
松ぼっくりを取り出して呪いたい相手の家の床下にでも入れておけば、血縁者もろとも全×させられるらしい。
3つ。『小さな壺に入ったミイラ』
夜の新宿を歩いていた時のこと。
「お嬢ちゃん、ノロイ、興味あるネ? 私、イイノ持ってるヨ。寄ってきナ。ヒヘッ」
露天商らしき中国人の爺さんが、いきなりそんなカタコトの日本語で話しかけてきた。
「この壺の中、コドクのオウ、入ってるネ」
爺さんはそう言いながら、奇妙な模様が描かれた小さな壺を、手のひらの上に乗せて見せてきた。
「コドク? ……
「ヒヒ。やっぱりお嬢ちゃん、好きだネ。私、見る目あるネ。ケヒヒィ」
私はyo××××eで蠱毒を知っていた。
ムカデやハチみたいな毒虫どもを1つの場所に閉じ込めて共喰いをさせる。
すると最後に1匹だけ生き残る。
ソレが『
「コドクにはまだ先があるネ。コドクたちを壺に閉じ込めて、更に殺し合い、させるヨネ。ソレに生き残ったのがオウサマ。究極の呪いネ」
怪しいと思いつつ、私は値段を聞いてみた。
爺さんが私のハンドバッグを指さす。
「全部ネ。イマ持ってるカネ、全部と交換ネ。ヒヘッ!」
その時は、4万円ぐらいが財布の中に入っていた。
私の金銭感覚からすると大した金額ではない。
いいかな? と思った。
ニヤニヤしながらお金を受け取る爺さんに、「本物かどうかオマエで試してやる笑」と嫌がらせで言ったところ、爺さんの目の奥が割とガチで
蠱毒の王というのも、あながち嘘ではないのかもしれない。
ちなみに、家に帰って壺の中を覗いてみると、ムカデとサソリを合体させたような奇妙な生き物の干からびたミイラが入っていた。
一瞬ソレがカサっと動いたように見えたが、たぶん気のせい。
4つ。『鬼神の能面』
オタ活で知り合った同世代ぐらいの男に貰った(?)。
男にしては珍しく同性のアイドルが好きらしく、エンプリのライブの帰りに声を掛けられたのをキッカケに、なんだかんだで繋がりができた。
初めは女オタクを狙うハイエナかと疑っていたが、やり取りをするうちに、純粋なエンプリのファンだということが分かった。
他に趣味で呪物コレクターをやっているらしく、私が呪いに興味があるのを知ると、コレクションの中でも神推しだという、鬼神の能面を見せてくれた。とある夕暮れの広場で。
ソレを被って呪いたい相手と
相手が少しでも怯えてしまえばジ・エンド。
心の
単純で便利な呪いだが、お面を外そうとしても外れなかったり、自分の顔と鬼神の顔が入れ替わったりと、使用者自身にもなにか恐ろしい末路が待ち受けていると言い伝えられているそうな。
私が面白半分にそのお面を被るフリをしたところ、男は「イギャアアアア!?!?!?」と本気でビビり倒しながらその場からバックれた。
(私がちゃんと被ってたら一発アウトだっただろアイツ)
私の手元にお面だけが残された……せっかくなのでイタダイテおいた⭐︎
ちなみにその男とは以降、全く連絡が取れなくなった。
いつの間にかオタ活用のアカウントも消されていた。
どうしてそこまでなったのかは分からない。
もしかしたらあの日、男にはもっと別の恐ろしいモノが見えていたのかもしれない。
あと、お面を触った日から三日三晩、鬼神に追いかけられる夢を見た。
最終的に鬱陶しさのあまりストレートパンチをお見舞いすると、どこかに消えていってしまったけれど。
「ふふ。ドイツもコイツもあの世行き。誰も私には逆らえない♪」
呪具さえあれば誰でも始末できる――そう思うと心がポカポカする。精神安定剤。最強。私は強くなれる。
呪具たちを段ボールに詰め終えたところで、つけっぱなしにしていたテレビに総理大臣が映った。
「あっ!? 今日も出てきやがったな!!!」
国会議事堂か何かの中を得意そうな顔でウロついている。
それを見た私はダンボールのフタを、バンッ!!! と叩いた。
「ふんっ。日本のテッペンだからって調子に乗るなよ。お前なんかその気になれば
呪いの前では総理大臣ですら私に
ならこの国の本当の頂点は――私だ!!!
「アハハハハハハハハハ!」
高笑いが止まらない。
ビバ! 呪具!
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