第6話 採用通知の連絡がくる。

「――担当部署にて検討を重ねましたところ、坂野様を弊社の正社員として採用することが決定いたしました」


 WEB面接を受けてから3日後のこと。


 家でダラダラ過ごす私にそんな電話がかかってきた。


「え? は? えぇっと受かったってこと? ……ですか?」


「はい。つきましては、今後の流れを説明させて頂きたく――」


(は? まじで言ってんのか?)


 面接では予想通り『これまで何をしてきたのか』と聞かれた。


 私はとりあえず『アルバイトを転々としつつ自営業に手を出してみたら上手くいかず、安定した正社員の仕事を探す事になった』とソレっぽいストーリーを語ってやった。


 履歴書の空白期間についても、アルバイトは職歴に含まないという謎ルールが存在するお陰で、向こうが勝手に納得して事なきを得た。


 自営業のパパ活は、ぼやかし過ぎて謎職と化したが……。


 それにしても――。


「私をるとか大丈夫かこの会社?」


 電話を切ったあと私は1人で呟いた。


(隠しきれない地雷に手を出すとかもはや自×志願者だろ。


 倒産したいって悩みを密かに抱え込んでる病み系か?


 女と心×したくてたまらないメンヘラ系か?)


 それとも――。


(まさか採用ドッキリ?


 アホ面さげてノコノコ会社に行った瞬間、手持ち看板持った社長おぢが飛び出てくるパターン?


 そんなのY××××beデビュー確定だろ。私だけモザイク無しだろ)


 私は思わずスマホに向かって怒鳴る。


「これから入るのに不安にさせんじゃねぇボケ!」


 するとまるで返事でもするかのように、L××Eにジュリエットサービスからメッセージが入ってきた。


 入社に向けてのやり取りはL××Eを通じて行うことになると言っていた。


 ◆


 なんだかんだで新しい人生の道が切り開かれ、嬉しくなった私は、少しルンルン気分で家を出て、近くのコンビニにケーキを買いに行った。


「あは。なんか仕事が決まった♪」


 この気持ちを誰かに伝えたいな。


 家に帰った私はTwitterのアプリをタップして推し活用アカウントを開いた。


 本垢はいつの間にか凍結。裏垢はいろいろあって自分で削除。もうこれしか残っていない。


『おめでとう私!!! 仕事が決まった!!! 今日はハッピーハッピー♪ みんなでケーキ♡』


 邪魔苦しい小物どもを腕でぎ払って綺麗に片付けた小さなテーブルの上に、買ってきたばかりの苺のショートケーキのパックを置く。


 それから、はすみんの公式生写真が収められたフォトフレームと、手のひらサイズのホウブ様のぬいぐるみを持ってきて、ケーキの周りに座らせてあげる。


 神トリオでケーキを囲んだ。


 記念撮影。


 TwitterとIn×××××amにそれぞれアップする。


 ケーキをフォークで一口サイズに切り、まずは、はすみんの口元に持っていく。次にホウブ様、最後に私。


 次はホウブ様が先、次にはすみん、最後に私。


「ふふ。幸せな時間」


 ケーキを食べつつスマホを見ていると、先ほどの投稿に対して何件か反応があった。


 いいね、が3件。


 誰かな?


 馴染みの推し仲間。


 だが、その中に『むくむく坊主』とかいうゴ×を極めたようなアカウントを発見する。


「あ!? またこのジジイかよ! 毎っ回、毎っ回キメェんだよボケ!!!」


 1ミリも共通点がないクセにある日いきなりフォローしてきた挙句、定期的に私の投稿に対して無言イイネを押しつけるス×ーカー予備軍。


 多分、推しの等身大パネルとのツーショット(自分の顔だけモザイク)や、グッズを持った手の写真を時々Twitterにあげているせい。


 時々こんな風にどこの馬の骨か分からない男が寄ってくる。


 少し若い女の姿を感じただけでアイツらはフィーバーするのだ。


「推しとの思い出の記録が男ホイホイになってんの地獄すぎんだろ。“お! 意外と可愛い女いるじゃん!”とか勝手に思うなよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る