第5話 履歴書を書く。
「履歴書とか大学のバイト以来だなァ。あの時はスラスラ書けたけど」
私は小さなテーブルの前に座りながら履歴書と向かい合っていた。
『最終学歴 ××女子大学××××学部××学科 中途退学』
「ネットで中退の書き方調べたら退学理由まで書いてんだよな……。まんま真似して『経済的理由により』って最後に入れとくか? どうせガチだし。親が学費払ってくれなくなったし」
2年生の前期の学費の振り込みを親が拒否してきた。
結果として通っていた大学を中退。
今思うとあらゆる支出をストップしとけば代わりに自分の力で払えたかもしれない。
でも当時の私にその発想はなかった。
単位からして壊滅的な状態。
勉強なんて
学費なんかにお金を使うぐらいなら――に。
授業なんかに時間を
「もしかして詳細とか聞かれる感じ? 何があったの? とか普通に聞いてくる? ならバカ正直に親が払ってくれなくなったからって言っとくか。でも更に踏み込んできたら焦るな」
当たり前のように大学を卒業していく学生が大半を占める中、私は2年生の初めに中退。
ただでさえ人間は他人の不幸の匂いに敏感な生き物。
相手は興味津々になるに違いない。
「しつこかったらその場でバックレてやろうかな。それか顔面パンチで抗戦か……ってWEBだからパンチは届かないな。まさかその為のWEB開催か??」
それ以上書くこともないので次へ。
職歴を考える。
「くそっ。この就職太郎とかいうやつエリートすぎんだろ。カタそうな会社ハシゴしやがって。サンプルのクセに何の参考にもならねぇんだよボケ!」
大学生の頃のバイト以外、夜の店とパパ活ぐらいでしか働いた経験がない。
どれどれ……私なりに書くとすれば……。
『令和×年 ×月 エターナルLOVE東京 入店
令和×年 ×月 一身上の都合により退店
令和×年 ×月 きゅーとhoney&bunny 入店
令和×年 ×月 一身上の都合により退店
令和×年 ×月 白雪姫にときめきMAX 入店
令和×年 ×月 一身上の都合により退店
令和×年 ×月 ウブウブ純潔が〜るず 入店
令和×年 ×月 一身上の都合により退店
令和×年 ×月 パパ活を開始。
現在に至る』
「なんだこれ。
もう詐称するか? パパ活は自営業でいけるんじゃね? など私は頭の中でいろいろと考えた。
「あっ! こういうのって店名じゃなくて運営会社の名前書くんじゃね? それなら割とまともな感じに……ってネットで調べられたら終わりか。秒で会社の正体バレるな」
私は頬杖をつきながら頭を悩ませた。
(初めの店でずっと働いてたらまだどうにかなったかなァ。単なるキャバクラだし。そういうの出身の女××ナとかフツーにテレビに転がってるもんなぁ。清純ぶってドヤってるもんなぁ)
まさか履歴書の段階でつまずくとは思っていなかった。
「面接官が“変態おぢ”とかだったら逆にアピールになるか? いや、ニヤけたツラ想像したら吐き気するな。てかそんなのに媚びたくねぇし。女だったら遠隔パンチ10発は浴びせてくるかな??」
仕方がないので夜の経歴は書かず、パパ活を自営業として記載する事にした。
「お陰で真っ白じゃん。大学すぐに退学してその後は空白期間育てまくりとか大丈夫か? それでいきなり謎の自営業スタート? やべー女だって勘違いされそうで怖いな」
『免許・資格』の欄も空白に近い。唯一の書き込みは親に勧められて取った自動車の運転免許ぐらい。
(そういや夜で稼いでんのにつまんなそうな職ダラダラと続けてる女とかいたな。もしかしたら空白期間対策だったのか?)
『趣味・特技』や『志望動機』はネットで拾ったサンプルを幾つも参考にしてそれっぽい文章を作りあげた。
そこだけ小さな文字で堅苦しい文章がビッシリと埋め尽くされている様は異様。
「なんだよこのチグハグな履歴書。もう落ちに行ってるだろ。面接おぢも何しに来たんだってビビるだろ」
私はブツブツ言いつつ仕上げに証明写真をペタッと貼った。
下ろした黒髪、一か八か下地だけにしてみた地味顔、マスカラなしの短いまつ毛、描きすぎた太眉、ノーアクセサリーの耳や首、シャツとスーツ。
普段の私とは別人のように素朴な女が写真の中にいた。
髪のウェーブが少し目立つけれどヘンテコ履歴書に比べれば誤差の範囲。
「で、これをPDFにって、どうやるんだ?」
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