第9話 会社のことを調べてみる。

(てかジュリエットサービスってなんだ?)


 顔パックをつけてソファの上でウトウトしていた私は、ハッとしたように目を開けた。


 よく分からない会社に、よく分からないまま採用され、よく分からないまま向かおうとしている。


「テキトウすぎんか? さすがに」


 目が覚めたので、試しにスマホで『ジュリエットサービス』『なんの会社』と検索してみる。


 表示されたページを上から順番に3つ、4つぐらい目を通して、情報をかき集める。


・人材派遣会社。

・業界3位の規模。

・東京都港区に本社を置き、全国に35の拠点。

・去年の売り上げ高は3200億円。

・従業員数は約2500名。

・在籍スタッフ数は約120万人。


「――と言われてもよくわかんねーな。てか派遣会社だったんか? なら私、入ったら派遣社員になる感じ? ……いや、違うだろ。正社員で募集してたんだし。結局人材コーディネーターってなにすんだ?」


 いろいろ考えつつ、本社が港区であることに私の意識が向かう。


「港区かよ。まさか会社あげて港区女子とか囲ってんじゃねぇだろーな。おぢ軍団がビルの最上階でふんぞり返ってそうで萎えるだろーが」


 一時期、港区通いをしていた。色眼鏡。


 それから業界3位がどのぐらい『スゲー』のかが気になった。


「知らんけど、そもそも派遣会社ってそんなに無いんじゃね。そこで3位? ビミョー?」


 私は派遣会社の数を調べてみた。


 すると、なんと。


「よ、4万以上!? そんなにあるのか!?」


 予想を遥かに超えた数字が出てきた。


「ってことは4万中3位? テストなら東大とか目指せるレベルだろっ」


……もしかして意外と凄い会社? 私はスマホの画面を見つめながらポカンとした。


「じゃあ売り上げ高3200億円ってのは?」


 私なりに調べてみたところ、あのポテトチップスの××ビーや、時計の××コー、本のカ×××など誰もが知るようなビッグネームの売り上げを上回っていることが分かった。


 他にもいろいろな視点で見てみたが、どの指標をとっても、ジュリエットサービスはそれなりに上位にいるようだった。


「嘘や……もしかして私、アタリ引いた? なにげに勝ち組ルート乗った? ドラマに出てくるような大企業勤めのOLになれるの? 来月から?」


 始めたばかりのソシャゲでガチャを引いたら、よく分からないアイテムが出てきて放置していたものの、後になってレアであることが判明した――時のような高揚感に包まれていく。


 それと共に、これまでパパ活で出会ってきた男たちの顔が、パラパラとフィルムになって私の目の前を舞い落ちる。


(これアイツらの会社にも勝ってんじゃね?


 社長とか、専務とか、肩書き自慢してくる奴いたけど、どうせその辺のビミョーな会社だろ?


 そんなのただの“弱社おぢ”じゃねーか。偉そうにしやがって!


 こっちは“強社おじょう”なんだよ。私の方が格上なんだよ。


 次会った時は頭を下げろ!)


 引き潮の浜辺のように、将来に対する不安がサーと引いていく。


 明るい未来(昼職)が私を待っている。

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