第3話 電話がかかってくる。

「え? え? え? えぇ!? ちょっと待ってっ。今なんか凄いの見た気がするんだけどっ♡」


 私は一瞬固まったあと、神速でipo××eの通知センターを開いた。


 最上部にはYo×××beの最新通知。


【カバーさせて頂きました】夜宴の彗星/Angel&Prince あなたへのおすすめ:綺羅星の鳳舞


「――はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、こ、呼吸ができない、今日が私の命日」


 私には2人の『推し』がいる。


 アイドルグループAngel&Prince(通称エンプリ)の『白玉しらたま羽澄はすみ


 VTuverの『綺羅星きらぼし鳳舞ほうぶ


 私の神推し2人。


――え? 神推しは1人だけだろ? ×すゾ⭐︎


「推しが推しの歌を歌ってる……」


 時々、歌ってみたを投稿しているホウブ様がなんと今回はエンプリの曲をカバーしたと言うのだ。


 降って湧いたまさかの推しどうしの交わり。


 私はパニックになった。


 震える指先で通知をタップする。


 Yo×××beのアプリが開かれる。


 聞き覚えのあるメロディに、聞き覚えのあるイケボがフュージョンしていた。


「あああああああ!!!!!! 本当に歌ってるうううううう!?!?!? 神っ! 神っ! 神っ! かみ! かンみぃっ!」


 興奮しすぎて噛んでしまった。


――ホウブ様×はすみん!? まさにこれこそ『まぜるな危険』だろ!? 化学メーカーどもは本物の劇物学んどけよ。


――てかコレをきっかけにホウブ様とはすみんのコラボが始まったり!? どんどん絡みが濃くなったり!? 


――あわわわわわわわわ!!!!! 今のうちにBL趣味(3次元)でも掘っとくか!? 開発しとくか!?


 私の頭が沸騰していく。


「はぁはぁ。なんていとしいのッ! ちゅ♡ ちゅ♡ ちゅ♡ ちゅ♡」


 私はとがらせた唇を画面に近づけようとした。


 だがその時、それを拒絶するかのようにスマホの画面が暗転する。


「ん?」


 イケボの代わりに耳障りな着信メロディが、イケ動画の代わりに『052×××××××』などという得体の知れない着信表示が現れる。


「あ!? 電話!?!? 誰だよ!!!!!」


 明らかに携帯以外からの、ほのかに怪しさが漂う電話番号。


(は!! さては定期的に湧いてくる不動産投資の勧誘とかだな!?


 アホか!!! そんなもん誘われたって理解できるわけねェだろ! 舐めんな!


 危うくゴミ画面にキスするとこだったじゃねーか)


 どこかの身の程知らずを叱りつけてやる。


 私は息を吸い込みながら通話ボタンを押した。


「何やってんだテメー!!! こっちはスーパーきゅんきゅんタイム入ってんだよ!! ぶっ飛ばすぞ!!!」


「え!? は、はい!? ……えっと、あの、わたくし……株式会ジュリ……の沢……と」


 若い男の声が聞こえた。


「あ?? 何言ってんだテメー?? ハッキリ喋れボケ!!!」


「はっ、はいぃ!!! わたくしっ株式会社ジュリエットサービスの沢見さわみと申します!!!」


「あ? ジュリエットがサービス? 何のだよ。夜の店みたいな名前しやが――」


 ここに来て何かが私の記憶をくすぐった。


(げっ! そういやこの前応募した会社がそんな名前だったような――)


 私は冷や汗を噴出しそうになった。


 後日担当から連絡が入るとサイトに書いてあった。


 多分コレがその電話だ。


 急に冷静さを取り戻す。


(――は。結構ヤバい系じゃね。下手したら入社もしてないのにクビじゃね)


坂野さかの茉白ましろ様のお電話でお間違いない……ですよね? 先日、求人サイト、ユアライフナビを通じてご応募頂きました件について、ご連絡さしあげたのですが……」


 男はそこから無言になった。


 本気でかけ間違えの可能性を考えているようだ。この先どうすればいいのか混乱しているに違いない。


「そ、そうだけど……いや、そうですけど! 私が坂野茉白ですけどっっ!? なにかっっ!?」


 ◆


「くそがっ! アイツが常識はずれなタイミングで電話してくるから大恥かいたじゃねーか!」


 奇跡的に会話は成立した。


 だが。


「ああああああ!!!」


 私は頭を掻きむしる。


(詰んでんだろ。SMSでメッセージ送るから後で確認しろとか、WEB面接の予約をしろとか、L××Eの友達登録して履歴書をPDなんとかで送れとか、いろいろ言ってたけどどうせ形だけだろ)


 私はいきなり出鼻をくじかれ気分だった。


「アイツは責任とってなんか他に神職でも探してこいよ」

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