第2話

 南九州を焼き尽くした大噴火に関連する記録A


 救助活動記録

 近衛隊隊長、アカリ


 今日はナーツ国があったと思われる地域の捜索活動を行った。


 山などの僅かな目印を頼りに見当を付けて火山灰を掘り返して跡地を探し、地中に埋もれた人を探すため、穂先を外した槍で地面を突き刺す。


 木造の建物はほとんどが焼けて灰に混じってしまっているようで火山灰を掘り返しての捜索は成果なく終わったが、付近の洞窟に焼け焦げた死体を確認することができた。


 おそらく噴火から避難しようとしたものの、熱の灰(原文ママ)によって一瞬で蒸し焼きにされたのだろう。


 噴火から日数が経っているのに、地面も空気も焼け付くような熱を持っており、3名の兵士が軽い火傷を負った。


 それと、地面に混じった鋭い石で切り傷を負った者が5名。


 幸い、今回の捜索にはそれぞれの部隊に一名の医者が随伴していたので、治療に困ることはなかった。


 ナーツ国の捜索を終了して次の国家へと向かっている最中、火山灰の上に一名の重傷者を発見した。


 頭蓋骨の骨折があったため、付近の部隊に伝令を送り医師を3人ほど用意し、テントを張って外科手術を行った。


 手術は成功し、患者は生存。


 私の知る限りでは、生存者は彼で2人目。


 この地域には少なくとも五万人以上が暮らしていたはずなのだが、それが一夜にして消えてしまった。


 我が国は、噴火の原因と発生時の対策を研究するため、他国と共同で調査団を派遣することを決めたそうだが、私が思うに、それは無意味だ。


 今、私の前には火山によって地獄の大地と化した世界が広がっている。おそらく、今後千年は誰も立ち入れないだろう。


 魔術師たちの力を否定するわけではないが、どれほど祈っても願っても、災害だけは防ぎようがないと個人的には思う。


 最も、我々には祈ることしかできないのだが。


 数日ほど前に、大陸からの捜索隊が来ていた。規模は20名ほどで、装備については私たちの物より充実していた。やはり大陸の技術はかなり発展しているらしい。


 槍の穂先も金属製で、分厚い防護服を着込んでいた。


 どうやら、大陸民の村がこの地域にも少なからず存在していたらしい。


 大陸に残った彼らの家族が噴火の話を聞いて政府に救助部隊の派遣を要請したため、医師二名を含む捜索隊の派遣が決定されたと言う。


 大陸人特有の白い肌も煤で真っ黒になっていて、雰囲気も殺気立っていた。


 普段私の接している大陸民は人当たりの良い商人で武人に会うのは初めてだったが、その迫力には少し圧倒された。


 話を聞くと、彼らの捜索してきた地域は、熱の灰によって即死できる地域の範囲外だったために多くの人々が未だに苦しんでおり、まさに地獄のような状況だったらしい。


 そして、貿易に来ていた大陸民15名の死亡と、移民村2つの壊滅を確認したそうだ。


 私は、彼らに各国が合同運用している補給基地の場所を教えておいた。


 各国の捜索隊に、水と食料それに医療支援を提供している補給基地は災害対策のために集められた膨大な物資が保管されている。


 支援する捜索隊が一つ増えても大きな影響は受けないし、優秀な医師を連れている彼らの協力を受けることができるメリットが大きいと判断した。


 大陸の民も、戦乱を逃れてこんな辺鄙な島国にまで逃げてきたというのに、噴火で死ぬとは気の毒だと感じた。





 付属して発見された資料

 作成者:大規模火山災害対策本部、本部長(名前は不明)


 災害被害地域の捜索は完了した。


 すでにこれ以上の生存者は見込めない。


 現場では毒ガスの発生も報告されており、調査団は、これ以上の捜索、調査は二次被害を拡大するだけだと判断を下した。


 よって、大規模火山災害対策本部は解散とし、災害被害地域については今後100年の立ち入りを禁止する。


 立ち入り規制を行う部隊は、不要のため設置しない。



 ※この地域は、その後1000年にわたり人類活動が途絶えており、培われてきた文化は根底から破壊し尽くされました。


 


 


 


 

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