第35話 私の好きな人

 いつも通り学校に行き、いつも通りに下駄箱で靴を履き替えようとしたところ、手紙が一通入っていた。


 嫌な予感はしていた。


『彼女たちから手を引け』


 手紙にはそう書かれていた。

うん...分かっていた。

そして、犯人も見当がついている。


 でもこれは言われても仕方ないよな。

2人の気持ちを蔑ろにして...いや、勅使河原先輩も含めたら3人か...。


 中途半端に有耶無耶にして、いつまでも濁している自分にイラつくのはその通りだ。


「...分かってるよ。そんなこと。言われなくても」


 だから、ちゃんと向き合おう。

そして、答えを出そう。


 ポケットに手紙をしまって、俺は莉来に連絡をした。


 ◇土曜日


「珍しいですね、先輩のほうから誘ってくるなんて。しかもお家にとか...。もしかして、私は睡眠薬を飲まされて、無理やり襲われちゃうんですか?」と、俺が出したお茶を美味しそうに飲みならそう言った。


「そんなAV的な展開はないから。というか、それを疑うなら躊躇いなくお茶を飲むなよ」


「いえ。飲みますよ?先輩になら無理やりされても...いえ、無理やりされてみたいですから」


「...相変わらずだな。俺にそんな趣味はない」


「じゃあ、どんな趣味ならあるんですか?」


「どんなって...。俺は非常にノーマルだ。というか、そういう経験がないから自分の性癖なんて知らねーし」


「じゃあ、今知ってみます?」


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093089525602075


 俺を見上げながら、少し顔を赤くして、そう言った。


「...いや、結構です。今はまだ知りたくない」


「今はまだ...ですか。それで?なんで私を家に呼んだんですか?何か理由があるんですよね?」


 何で呼んだか...か。


「ちゃんと向き合おうと思ったから。莉来とも雪花とも。もちろん、過去ともね。やっぱり今のままじゃダメだって思ったから」


「結論は焦らなくてもいいですよ?私はずっと待てますから。何日でも、何ヶ月でも、何年でも。ほら、放置プレイ好きなんでw」と、茶化したように笑う。


「そんなことはしない。けど、別に焦って決めたくなったわけでもないんだけど...。なんていうか...ね」


「まぁ、私的には早めに決めてもらえれば、それはそれで嬉しいですから。全然いいですけどね。最初に言っておきますけど、選んだことに細かい理由なんていらないですからね?先輩が選んだなら私はどんな結果でも受け入れますから」


 相変わらず、俺なんかよりずっとしっかりしている莉来。


「...ありがとう」


「いいえwまぁ、もちろん負けるつもりもないですけどね?最初に言っておきますけど、私と付き合ったら、毎日イチャイチャしますから、そういう覚悟はしておいてくださいね?って、前に自分が言ったことと矛盾しちゃってるんですけど...。今ならわかるんですよね。好きな人を束縛したくなる気持ち。きっと、私は今初めて本能の恋をしてるんだと思います」


 そう言って無邪気に笑う彼女はすごく眩しく見えた。



 ◇


 1人で帰っていると、目の前に4人の男が現れる。


 ...見覚えがある顔が数人。

副会長、春川大樹、佐藤誠、謎の男...。

最後の1人は知らないけど、なるほど。

やっぱり、連んでたのね。


「...会長」と、副会長が不安そうな顔で私を見つめる。


「あら?いきなりどうしたの?副会長さん」


「...あの男は辞めておいた方がいいです。会長の気持ちに気づきながら、その気持ちに応えるわけでもなく、断るわけでもなく...曖昧なことを言い続けている最低な男です!」


 私は少しだけため息をつく。


 いつかこういうことをしかねないと思っていた。

そういう時のシミュレーションは一応していたが、そんなものがどうでも良くなる程にイラつき、副会長を睨みつけてこう言った。


「あなたが何を考え、何をしようと勝手だけど...私の好きな人に手を出したら殺すわよ」


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093089526842970


 その迫力に後退りする副会長。


「し、知りませんよ...どうなっても」


「2度も言わせないで。何かしようっていうなら私は私の持てる力を使ってあなたを全力で潰すから。その覚悟があるならかかってきなさい」


 すると、逃げるように去っていく4人の男たち。


 しかし、これで手を引くとも思えない。

さて、どうしたものかしらね。


 そして、私は彼に連絡するのだった。

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