第27話 過去③

 それからのことはあまり思い出したくはない。


 しかしながら、救いだったのは冬休み終わりはあまり学校に行く必要がなかったことと、俺が行く高校には同じクラスのやつが進学しないことだ。

なので、適当な言い訳を考えて適度にサボった。


 けど、全部休むわけにはいかなくて、どうしても行かなきゃいけない時は完全に心を閉ざして、学校に通った。


 もちろんいろんなやつに...特にあの女子に陰口を言われたりもしたが、ひたすらに相手にしなかった。


 その間に最後の席替えが行われ、永丈さんとは離れ離れになったことは俺にとっては幸運だった。


 当然、あの日以降話してないし、手紙のやり取りも行なっていない。

しかし、手紙のやり取りは行っていないだけで、手紙が来てないわけではなかった。


 多分、彼女からのものと思われる手紙は学校に来るたび、机の中に入っていた。

しかし、本人のものかは分からないし、もうどうでも良かったので、読まずに捨てた。


 仕事として、読まずに手紙を食べている黒ヤギさんより遥かに酷い行為であることは分かっていた。


 それでも、来る日も来る日も手紙を捨て続けた。


 そうして、卒業式を迎えるのだった。


 みんなが感動で涙するなか、俺だけはようやく解放されたという気持ちでいっぱいであった。


 そうして、涙ぐむクラスメイトを鼻で笑いながら、卒業式が終わるとさっさと教室を後にした。


 そのまま、上履きを回収して、さっさと家に帰ろうとしたところ、その靴箱の中に一枚の手紙が入っていた。


 それが誰からの手紙かは読まずとも分かった。


 捨ててやろうか、それともビリビリに破いてやろうか迷ったが、最後ということもあり、仕方ないので読んでから破くことにした。


 そこには『校舎の裏で待ってます』とだけ書かれていた。


 そのまま俺はビリビリに破いて、校舎裏に向かうのだった。


 しかし、そこには彼女の姿はなかった。

多分、まだ教室にいるのだろうと思っていると、後ろから声をかけられる。


「...国見...ッ!!」


 振り返ると涙でいっぱいの彼女の姿がそこにあった。


「...来てくれるとッ...思わなかったッ!!」



【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093084846226834


 その姿に一瞬だけ覚悟が鈍りそうになる。


 いや、決めたことだろ。

俺はいうって...。


「私...ッ!私「楽しかったかよ...」「...え?」と、キョトンとした顔になる永丈さん。


「俺みたいなインキャの心を弄んで、どうせ最初から全部仕組んでたんだろ。あぁやって、最後には笑い物にするように。あー引っかかった、引っかかった。本当...最高に楽しい時間だったわ。マジで。2度と...俺の前に現れるな」と、俺はビリビリに破いた手紙をさらに思いっきり投げた。


 それはゆっくりと落ちていく。


 まるで、白い桜のように、ヒラヒラと。


「...この嘘つき」と、俺はまるで漫画のキャラのような捨て台詞を吐いて、その場を後にした。



 ◇


 それから1ヶ月の間に俺は変わった。


 変わった理由はいくつかある。


 1つ目は『友達は作らない。人間強度が下がるから』と言っていたアニメキャラが普通に友達を作るようになっていたから。


 2つ目はもう2度とあんな思いをしたくないから。


 3つ目は親友が欲しくなったから。なんでも相談できて、一緒に笑って、お互いにリスペクトできるようなそんな存在が欲しくなったのだ。


 ということで、俺は自分を作り替えて高校に入ったのだ。


 1年の頃はなかなか苦戦したものの、2年になるとようやくと自然に演じられるようになり、新しい国見星矢という人間が完成したのだった。


 しかし、そんなタイミングで...昔の国見星矢に戻りそうになってしまうのだった。



 ◇


 目を覚ますとそこは保健室だった。


「あら?目が覚めた?大丈夫?」と、保健室の先生に声をかけられる。


「...なんで保健室に?」


「覚えてないの?あなた、トイレで倒れていたのよ。貧血かしらね?」


「...そう...なんですね。すみません」


「別に謝らなくていいわ。私は何もしてないし。それより、あなたが倒れたことを言いにきた、生徒会長にちゃんとお礼を言うべきね」


「...雪花が...」


 けど、今の俺は...少しだけ昔の俺に戻っていた。


 今までのことを振り返ったとき、雪花もまたいつか俺を裏切るんじゃないかとか、そんなことが頭をよぎる。


 ...最低だな。


 そうして、そのままもう一度ベッドに倒れる。


「もう少し寝ていく?」


「今何時ですか?」


「11時よ」


「...そうですね。もう少し寝ます」


 そう言って目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る