第26話 過去②

 文通のやり取りで分かったことは、永丈さんは親御さんの仕事の関係で、少し遠くの高校に進学するということだった。


 つまりはこの関係はあと3ヶ月程度しか持たないということを表していた。


 別になんということではない。

そもそも彼女と俺はただの文通友達でしかないのだから。


 特段、他の人と何か違うことがあるわけでもない。

中学を卒業したら終わりで、それ以降会うことはない。

同窓会なんて俺が参加するわけもないし。


 そうして、月日は流れていき、12月を迎えていた。


 文通を始めてからは教科書を見せてくれということを言われることもなく、俺たちは会話すること自体は全くなくなっていた。


 その代わり文通の頻度は少し多くなっていて、1日に数回交換するようになっていた。


『ね、そろそろクリスマスだね。楽しみだなー。サンタさんは何くれるかなー?国見は去年何もらった?』

『去年は...ゲームだね。一昨年もゲーム、その前もゲームかな。永丈さんは何もらった?』

『うーわ、ゲームばっかじゃんw国見らしいねー。私はねー、スマートウォッチもらったよ』

『へぇ、そうなんだ。今年は何が欲しいの?』

『サンタさんには化粧品お願いする予定ー。けど、それとは別にアクセサリーも欲しいかな?ほら、ネックレスとか(チラッ)』

『女子はその歳で化粧品とかもらうんだ。意外』

『おーい、無視すんなよー。私もちゃんとあげるからね!ね!』


 そうして、月日は流れ12月24日を迎える。


 その日は終業式であり、明日から冬休みであった。


 一応、お小遣いを貯めて、クリスマスプレゼントは用意したものの...渡すタイミングが見つからない。

というか、手紙のやり取り以外をしていなかったので、普通に話すのがなんだか照れ臭かったのだ。


 なので、終業式を行うためにみんなが教室を出たタイミングを見計らって、こっそりと永丈さんの机の中に手紙とプレゼントをセットで入れた。


 そうして、終業式は無事終わり、HRも終わるといよいよ冬休みが始まる...はずだった。


 全員が荷物をまとめて帰ろうとしたところ、一人の女子が声を上げる。


「ねぇ、みんなちょっと聞いて!w私さっき面白いもの見ちゃったんだよねーw」と、チラチラとこちらを見ながら笑う女子。


 その女子はクラスカースト上位でありながら、下位グループの女子たちに嫌がらせをしたり、バカにしたりとかなり性格の悪い女子であった。


 すると、そいつは永丈さんの机の中に勝手に手を突っ込むと、俺のプレゼントと手紙を取り出した。


「じゃじゃーん!これなんでしょー!w」というと、クラス中がざわざわし始める。


「私、さっき見ちゃったんだよねー!これを国見が入れてるところ!w」と、言われる。


「あっ、いや...」


 すると、更にニヤニヤしながら、手紙を勝手に開け始めるのだった。


「ちょっと」と、止めようとするが、構わずそいつは大きな声で俺の手紙を読み始める。


「『永丈さんへ。このネックレスをプレゼントします。似合う似合わないはよく分からないけど、大切にしてくれると嬉しいです。メリークリスマス』だってwwうーわ、キモwあんたさー、接点もないのにこんなことする?wもしかして、隣の席になって少し話したくらいでなんか勘違いしちゃったwマジうけるんですけどwね、アイラー。こいつとなんかあるのー?w」というと、教室中でやや俺を馬鹿にするような笑いが起きる。


 多分、顔は真っ赤になっていた。

恥ずかしさと、怒りと、焦燥感...。


 確かに周りから見れば俺たちはほぼ無関係の間柄であり、プレゼントも一方的に見えるだろう。


 が、それは勘違いである。

俺たちはここ2ヶ月ほどで少し特殊な関係を築いていたのだ。


 だからこそ、永丈さんは否定すると思っていた。


 そうして、彼女を見つめると...少し下を俯きながら「...知らない。国見とは友達でもなんでもないし」と言ったのだった。



【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093084817620944


 かけられたハシゴを外された気分...、いや親友に大好きな人を殺された気分に近かった。


 悲しさとか悔しさとか恥ずかしさで涙が溢れそうになって、俺はそいつの手から無理やり手紙とプレゼントを奪い取ると、教室を飛び出した。


「うわー!きんも!wオタクが勘違いすんなよ!w」と、後ろからあの女の声が聞こえた。


 そうして、階段を転がるように降りて行き、そのまま生徒用玄関に向かい、靴を乱暴に取って、踵を踏みながら走り出した。


 それからは涙で前が見えなくなりながらも、走った。


 途中で凍った歩道で思いっきりこけて、全身が悲鳴をあげた。


 心配してくれたおばさんの声を無視して、それでも走った。


 そして、家の近くまできたところで、ようやく一息つく。


 呼吸は荒れていた。


 それは走ったせいもあったろうが、どちらかというと泣きそうに...いや、泣いていたせいであったろう。


「あっ...ッ!うっんっ...ッ!」と、嗚咽混じりの呼吸を続ける。


 すると、その瞬間、空から雪が降ってきた。


 なんとも最悪なクリスマスイブだった。


 そのままふと、横を見るとそこには家の近くのゴミステーションがあることに気づいた。


 少しフラフラしながら、そこに近づいて、右手で握ったプレゼントをそこに叩きつける。

そして、次に左手で握った手紙を投げつける。


 本当...バカな話だ。


 思わず呆れながら、そうして膝を抱えてその場で泣くのだった。

雪は降り止むことはなかった。

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