第25話 過去①
◇2年前 中学3年 11月のこと
中学時代の俺は内向的で友達はほとんどいなかった。
まぁ、たまに話す程度の薄い関係の人はいたが向こうは友達とは思っていなかったと思うし、俺も同じであった。
なぜ、俺に友達がいなかったのか。
内向的のも理由の一つではあるが、その時はまっていたアニメで友達を作らない理由に『人間強度が下がるから』というのがあった。
まぁ、そんなちょうどいい言い訳を見つけた俺はそれを盾に、できなかっただけなのに、作らなかったということにするのだった。
そんな感じで友達もいなければ好きな子もいない、そんなつまらない学生生活を送っており、中学生も残り数か月というところであるイベントが起きた。
それは最後の席替えで学校で一番人気のある女子、【
まぁ、別に隣の席になろうが関係ないと思っていたのだが...。
「よろしくね、国見くん」と、声をかけられる。
「あっ...はい」
心臓がバクバクした。
人気者にとってはただの挨拶であっても、日陰者にとっては大切な思い出になるのだ。
先ほどまでペラペラと友達がどうとか言っていたわけだが、人に嫌われるのは怖いのだ。
特に人気者に嫌われると...死にたくなる。
ということで、友達は作らないものの、最低限のコミュニケーションは取るようにしているのだが...。
◇翌日
いつも通り次の授業の準備をしていると、隣の席の彼女が何やら慌てている。
ちなみに彼女は窓際の席であるため、隣の席は俺だけなのだ。
そして、「ねぇ、国見くん。教科書忘れちゃったから見せてくれない?」というのだった。
「え?あぁ...はい」
中学3年の11月になって、こんなラッキーイベントが起こるなんて...。
そうして、机をくっつける。
「ありがとね」
「...はい」
チラッと彼女の横顔を覗く。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093084756764849
綺麗な白髪と、対照的な褐色の肌。
更に整った容姿と、まるでアニメに出てきそうなほど個性たっぷりな彼女に目を奪われる。
「...何?私の顔に何かついてる?」
「い、いや!な、にゃにも...」と、甘噛みをかます。
「...変な人」
最後の最後でちょっとだけいい思い出が出来たなと思ったのだが...。
次の日は数学、次の日は理科、次の日は社会、と毎日違う教科の教科書を忘れたと言って俺に見せるように言ってきたのだった。
そして、毎日1教科何らかの教科書を忘れる彼女とはコミュニケーションを取るようになっていた。
しかしそれは話したりではなく、ノートを通しての会話だった。
『国見は休みの日何してるの?』と、ノートに書いてその場所をトントンとシャーペンで差して、質問してくる。
『アニメとか漫画読んだりとか。あとはゲームとか』と、返す。
『うーわ、見た目通りだね(^^)』と、やや煽りながらそんなことを言ってくる。
『そういう永丈さんの趣味は?』
『教えませーん』
すると、楽しそうにニヤニヤと笑う。
こうして、やり取りをするようになったが、あくまで会話するのは教科書を忘れた授業のみ...それもノートを通してのみだった。
少しだけ、特別な関係になれたかと思っていたが、彼女はいつだって誰とでも仲良くなれる女の子だったため、いつも周りには人が集まっていた。
俺もその中の一人に過ぎないことはなんとなく分かっていた。
そんなある日の朝のこと。
いつも通り、ちょっと朝早めに学校に来て、読書をしようと机の中に手を突っ込むと、本しか入っていないはずの机の中に覚えのない感触がした。
取り出すとこれは小さく折り畳まれた手紙だった。
それを開封すると、中には『やっほ、国見。最近見た映画で手紙をやりとりしているシーンがあって、ちょっといいなと思ったので手紙を書いてみたよ。これからは手紙でやりとりしよ?』と書かれていた。
差出人の名前はなかったが、それが永丈さんの手紙であることは明らかであった。
俺はすぐさま返事を書いてこっそりと永丈さんの机の中に入れた。
こうして、時代錯誤ではあるかもしれないが、俺と彼女の文通が始まったのである。
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