第24話 転校生

 ◇


 いつもと何も変わらない何でもない日。

朝読書を済ませると、始まったHRを適当に聞き流す。


 はぁ...もう少しで12月か。

本当、時間の流れは早いなとか思いながら外を眺める。


「なぁ、聖矢~。数学の宿題やってる?」


「...」


「いや、無言で見つめるのやめてくれよ。怖いよ。あくまでこれは世論調査みたいなもので...他意はないんだぜ?」


「...つまり見せてくれとは絶対言わないってことだな?」


「当たり前だろ!俺がそんなことするやつに見えるか!?」


「見えるね。そんな奴にしか見えない」


「...まぁまぁ、とりあえずやってるかどうかを教えてくれよ~」


「...やってるよ」


「んじゃ、貸してくれ!ほら、見せてくれとは言わなかったろ!」


「...そうだな。...はぁ、わかったよ。どうぞ」と、仕方なく手渡す。


「ありがとう!愛してる!」


「...紙切れ一枚ほどの愛なんていらねーっての」


「そういや、お前のバイト先に生徒会長入ったんだろ?噂になってんぞ?」


「...何の噂だよ」


「そりゃ、お前と生徒会長が付き合ってるって噂。しかも、1年の仙道とも同じバイト先なんだろ?気をつけろよ」


「何をだよ」


「決まってんだろ?両方の元カレにだよ。まぁ、違うなら違うともっとアピールしたほうがいいぞ」


「...なんか知ってんのか?」


「噂程度にな。まぁ、なんかあってもお前のことは俺が守ってやるよ。あっ、今の良助りょうすけ的にポイント高い!!」


 これまで特段触れてこなかったが、俺はそれなりに友達が多いほうである。

クラスメイトの男子とはほぼ全員話す程度の仲。

特定のグループに所属しているわけではないので、親友的なポジションの人はいないが、俺にとってはそれが結構丁度良かった。


 すると、「そんで~、あっ、っべ~忘れてた。今日は転校生がいるから~はいってこーい」という、先生の突然の報告に教室が騒めく。


 こんな微妙な時期に転校?

なんか問題児とかじゃないよな?とか、そんなことを思いながら、教室の扉が開く。


 そうして、黒板の前に立つ一人の女の子...。

それは見間違えることなどないほどにインパクトの強い見た目。


 綺麗な白髪に、褐色の肌...そして整った容姿。

中学時代に見ていた彼女と変わらない...いや、なお綺麗になった【永丈えいじょう アイラ】がそこにいた。



【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093084702978405


 思わず目が釘付けになってしまう。

すると、彼女も少しうつろな目をしたまま、俺を見て少しだけ瞳孔が開いたのが分かった。


 すると、お互いに目をそらす。


 なんで...今更...。


 HRが終わると、すぐに彼女周りに人が集まる。

あの時と変わらない。彼女はクラスの中心で、俺はクラスの日陰に居る。

変われた気がしていただけで何も変わっていない。あの頃から。


 居心地が悪くなり、そのまま教室から出る。


 すると、教室から出ようとする俺に声をかける。


「国...見だよね?」


 一瞬、体が固まってしまう。

それは...返答なんてしなくても答えているようなものだった。


 それでも俺は無視して教室を出た。


 すると、廊下に出たタイミングで雪花とぶつかりそうになってしまう。


「あら、びっくりした。そんなに慌ててどうしたの?」


「あぁ...いや...何でもない」と、伏し目がちにその場を去ろうとすると手をつかまれる。


「ちょっと。何もないようには見えないわよ」


「...頼む。手を放してくれ」と、小さくつぶやくと無言で手を離される。


 確かに今の俺があるのは良くも悪くも彼女のおかげである。

そう、良くも悪くも...である。


 少なくても感謝をするようなことをされたわけではない。


 まぁ、よくある盛大な青春の勘違いというやつだ。


 だからこそ、変わった自分など見られたくはなかったし、見せたくもなかったし、彼女とは会いたくもなかった。


 しかしながらそうなってしまった以上はもうどうしようもないのだが。


 今頃、自分の話をされているだろうか。

そんなネガティブなことばかりが頭を埋め尽くす。


 そうして、思い出したくないことまで、思い出される。

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