第22話 二人は借りを返したい

 ◇


 勅使河原先輩の家の前で待っていると、少し目を細めながらやってくる莉来。


「こんにちは、雪花先輩」


「こんにちは、莉来」


「あの、家に入る前に伺いたいんですが、雪花先輩。もしかして、あの後もここに通ってました?」


「...その言い方だとまさかあなたも?」


「...まぁ、頻繁ではないですが。先輩と被らない曜日で会いにきてました」


「...そう」


「んで、ここに私を呼んだってことはこの前のこと先輩から聞いたってことですよね?」


「...えぇ、まぁ。やっぱりあなたも知ってたの」


「先輩から電話が来たので」


「それで?なんて答えたの?」


「会うべきではないと伝えました。本人がそう望んでるわけですしね」


「...私と同じね」


「そうですか。てことは雪花先輩も電話で聞いたんですか?」


「...いえ。その...さっき家に呼ばれて...」


「はぁ!?抜け駆けはなしって言ったじゃないですか!」


「ぬ、抜け駆けはしてないわ!だからこうして...あなたに声をかけたんだし。それにあなただって電話したなら私に報告するべきでしょ!」


「そ、それは...」と、不毛な戦いだと気づき、まずは一旦家に入ることにした。


 インターホンを押すといつも通り聖奈さんがやってくる。


「あら?今日は珍しく2人で来たんだね」


「「はい」」


「...そう。安心して?君たち二人が来ていることは彼には内緒にしてるから。その方が都合がいいんでしょ?それで?今日はどうしたの?」


「...少し、勅使河原先輩と話したくて」


「...そう」



 ◇


 そうして、二人で部屋の前に立つ。


「...勅使河原先輩」と、私が声をかけると「帰って」と、言われる。


 久しぶりに聞いた声でそんなことを言われた。


「...星矢にも同じように言ったんですか?」


「...」


「...それは本心ですか?それが本心なら私達はもう2度ときません。星矢にもそう伝えます。それでいいんですね?」


「...」


「分かりました。では、私達はこれで。生徒会の時は...いろいろ助けてくださりありがとうございました。...それでは、さようなら」


「...って」


「...何ですか?」


「...待って」と言いながら扉が開く。


 そうして、私達は久しぶりに勅使河原先輩を目にした。

その姿は以前のたくましく、冷たい目とは違い、弱く...儚い...そんな存在になっていた。


「...ごめんなさい」


「...それは私たちに向ける言葉ではないと思いますけど。まぁ、そうですね。では、話を聞きましょうか」


「...うん」


 そうして、私たち二人は部屋に上がった。


 部屋の中はかなり散らかっていた。

ゴミとかはないが、服とか、学校の書類らしきものとか、そういういろんなものが落ちていた。


「...ごめんなさい。汚くて」


「いえ。私もたまに部屋がこんな感じになる時があるので」

「それは私もおんなじだね〜」


「...その...ありがとう。今まで...たくさん会いにきてくれて」


「いえ。それは星矢に言うべきことだと思いますけどね」


「...そうだね。でも...今の私は...国見に会う資格はない...から」


「そうですね。ないでしょうね」

「ちょっと!先輩!」


「事実だからしょうがないわ。別に今回の一件は星矢のせいじゃないことくらい分かっていますよね。けど、星矢は自分を責め続けた。そんな星矢を助けられるのは勅使河原先輩だけだった。なのになんで許さなかったか。当ててあげましょうか?もし、許してしまったら自分から離れてしまうんじゃないかって不安だったから。違いますか?」


「...違わない...よ」


「そうですか。であれば、それは最悪の選択です。勅使河原先輩からしたら彼のことを思っての行動だったんでしょうけど、それは逆効果です。星矢は今、苦しんでいます。ずっと自分を責め続けて...。見ているこっちも辛いんですよ。なんで、最後くらいちゃんと顔を見て拒絶してあげなかったんですか?最後の最後まで...保身に走って、嫌われるのが怖くて...でも、いつか嫌われるくらいならって...それで拒絶するなんて最低ですよ」

「ちょちょちょ!ストップ!雪花先輩!」と、莉来が必死に止めに入る。


「...いや、いいの。全部...雪花の言うとおりだから。私が間違っていた」


「...先輩」


「...国見には...私のほうから謝る...。けど、もう少しだけ時間が欲しいことも...伝える」


「...わかりました。行くわよ、莉来」


「は、はい...。てか、私いないほうがよくなかったですか...?」


「そんなことないわ。あなたがいなかったら...もっときついこと言ってた気がするから」


「二人とも...ごめん。それと...家に来てくれて...ありがとう」


 そうして、部屋を出た私たちは聖奈さんに挨拶をする。


「...ありがとうございます。先輩と話せました」


「本当!?そっかそっか...ありがとうね...二人とも」と、少し涙ぐんでいた。


「...いえ。私たちは何も...」


「...ううん。何もしてないなんてことないよ。本当にありがとう。...何か困ったらいつでも私に相談してね」


「「...はい」」


 そうして、俺たちは家を後にした。


「...これで少しは借りを返せたかしらね」


「どうでしょうね...。先輩はそもそもあんまり借りとか思ってないと思いますし...」


「...そうね。まぁ、先輩と仲直りが終わったら...私はそろそろ本気で取りに行くわよ」


「...そんなワン〇ースを取りに行くシャン〇スみたいなノリで言わないでくださいよ!...わかってますよ!私だって絶対負けませんから!」



【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093084620425244


「場合によってはもう一人ライバルが増えるかもだけどね」

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