第16話 【勅使河原 詩】は後悔する

「...それで?なんでしょうか?」


「わかっていると思いますが、佐山和也さんについて伺いたくて、声をかけました」と、雪花が告げる。


「...なんですか?」


「和也さんをいじめているというのは本当ですか?」


「...あいつ話しやがったのか」と、苦虫をつぶしたような表情を見せる。


「それは事実だと認めるということでよいですか?」


「...あぁ、認めるよ。正確にはいじめていただけどな」


「今は何もしていないと?」


「何もしていないというより、無視してるし。飯とか洗濯とか掃除とか、自分のことは全部やらせている。まぁ、あいつは別に家族じゃないし。そもそもあんなやばい父親の息子とか、置いてやっているだけでも感謝してほしいくらいだがな」


「...二つほどいいかしら?」


「なんすか?説教ですか?w」と、おそらく本性を垣間見せながら煽るように発言する。


「あなたにもそのやばい父親と同じ血が流れているはずでしょ?だって、従弟の関係なんですから。それに置いてやってるって、あなたに何の権限があっていってるの?家にお金を入れているわけでもなく、両親からしたらあなただっておいているだけの存在に過ぎないんじゃないの?いや、それより家庭内で無視をしたり、いじめを行ったり...よかったじゃない。あなたにもその血がしっかり流れていることが分かって」と、煽りに対して10倍ほどの煽りで返す雪花。



【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093084307556043



「...てめぇ」と、睨みつける。


 そこで俺が割って入る。


「...今の音声はすべて録音していました。これを持って警察に行けば...いや、警察が対応してくれないなら学校に報告したり、実名付きでSNSに晒すことができます」


「...俺を脅そうっていうのか?人のこと言えねーなーwおいw俺と何も変わらないじゃねーか」


 少しだけ昔のことが過る。

助けられなかったあの子のことを思い出す。

こういう明確な悪意を持った人間が世の中には無数にのさばっている。

...正義なんて大それたことを言うつもりはない。

ただ、俺は俺の正しさを貫きたいのだ。

そのためには悪にだってなってやる。


「そうかもしれませんね。それで...だからなんですか?まさかそんなことでこちらが手を引くと本気で思っているなら相当に頭がお花畑ですね。逆効果ですよ。今、決めました。私はあなたをいじめることに決めました。いえ、あなただけではないです。あなたの兄弟も家族も...あなたの好きな人も...」と、意味深な笑みを向けると、胸倉をつかまれる。


 その瞬間、ボディガードが割って入り、見事な背負い投げで一本を決める。


「ぐっは!!」と、そのまま締め技に入るボディガード。


 そして、俺は飲んでいたカフェオレを奴の顔にチロチロとたらしながら、「...ここはリングじゃないので、10カウントなんて存在しないんです。わかります?あなたをここで殺して、山奥に沈めて警察は買収する。そんなだけでいいですよ。日本の行方不明者は年間約8万人。全員が全員、見事に痕跡も残さず消えると思います?誰かが消してるんですよ。さて、あなたも今日その8万人のうちの1人になるわけですが...。最後に何か言いたいことありますか?」


 絞められていることで顔が真っ赤になりながら呼吸すらまともにできない中、「たす...け...てッ!!」と小さくつぶやく。


「きっと、佐山和也さんも同じこと言ったんじゃないですか?そしてあなたは助けなかった...。さて、さっきの発言をもう一度振り返ってみましょう。『人のことを言えないな...俺と変わらない』でしたっけ?だとすれば、俺たちはこのままあなたを殺すことになってしまうのですよね」


「ごめん...なっ...さ...いッ」


「言う相手を間違えていますよ。俺に言うべき言葉ではないでしょう。過去の過ちを謝罪し、家族として受け入れてあげてください。別に仲良くしろというつもりはないですから」


 そうして、色々と証拠の動画を納め、彼のことを説得することに成功した。


 もしかしたら、何か反抗的なことをされるかと少しおびえていたが、どうやら本当に謝罪をしてくれたようで、家庭の問題については解決することができた。


 これで一件落着...なんてことになればよかったのだが...。



 ◇


「...ねぇ。詩...もしかして俺と別れようとしている?詩は俺のことを見捨てないよね?ね?」


「やめ...て...」


「やめてって何?俺はただ...。ねぇ、お兄ちゃん達...。もちろん、協力してくれるよね?」

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