無修正の動画


『やあ、俺だよ』


声の主は遠崎識人だった。

当の本人が電話して来た事で。

鬼怒川万次は動画を撮った事を喜々として語り出す。


「俺の女とヤっただろ?終わったぜ、テメェ!」


と勝利の笑みを浮かべながら言った。

しかし。

遠崎識人は平然とした口調で語り掛ける。


『あぁ、知っているよ』


知っている。

それは強がりに聞こえた。

しかし、全てを知っているかの様な言い方。

それは決して侮れない事。

同時に。

知っているのならば。

何故、暴こうなどしなかったのか。


「負け惜しみか、テメェ」


『いいや、むしろ、何故キミがそこまで冷静なのかな?』


鬼怒川は視線を哭目に向けた。

途端に、彼女は視線を逸らす。


『動画の内容を見ていたら…俺の事を、「殺してやる」くらいは言って来そうだと思ったけど』


耳を貸す必要はない。

早々に、動画を教師陣に提出。

それか、哭目と同じ様に、無修正のエロ動画サイトで顔出しで配信してしまえば、遠崎識人の進路は潰え、必然的に退学となる他無いのだが。


『もしかして、彼女…修正でもしていたのかな?』


新たに、チャットアプリに通知が届く。

それは、匿名からの動画の送信だった。


『確認すると良い、それが、修正しなかった動画だよ』


恐らく罠だ。

しかし。

鬼怒川は我を忘れていた。

ウイルス対策ソフトに通す事無く。

動画を再生してしまった。


次の瞬間。

音声込みの動画が流し込まれた。








おっッ?!しゅごッぉッ


きぬ、かわっしゃまより、いィッ!!


おくっ、と、届いで、んあああッ!!あがっあ、はッ


だゃめ、っこきゅっ、できなっ、なんっんなああっあ!


ひひゅっ、ひゅっぐっッう、ううッ、ッッっはっ


はーッ…はーっ…ぇあ?ま、まだ、いやっッんあッ!!


ふ、ぁッ、あっ!!あッ!!っくッ、イぐッ!あッ!!


ッお、はらむ、っきぬかわッさまッごめんなッいッぁぁッ!!





…喉奥からヒキガエルの様な声を漏らし。

鬼怒川よりも烈しく悶える彼女の声。

それを耳にした瞬間、鬼怒川は怒りを覚えた。


『どうかな?キミの動画の一部にしてくれると、とても嬉しいけど』


近くに居た哭目に顔を向ける。

彼が何故こんなにも怒り狂っているのか。

胸に手を添えて怖れを抱く表情を浮かべながら。


「このッ、クソビッチがッ!!」


叫び。

彼女の顔面を殴る。

地面に倒れる哭目。

鼻を突かれて手で抑える。

涙目になりながら、鼻から血を流していた。


「ざけんなテメェッ!!こんなッ!こんなのッ!!」


叫ぶ鬼怒川。

遠崎識人は冷静な声色で話を続ける。


『気に入ってくれたかい?どうやら彼女は、キミよりも俺の方が好きみたいだ』


決して。

煽っているわけではない。

だが、その言葉が余計に鬼怒川の怒りに火を注いだ。


「殺してやるッ…ッ!!」


張り詰めた空気を切り裂く声。

心地良い気分になりながら。

遠崎識人は彼の殺意に堪える。


『素敵な台詞だ、目が冴えるよ』


遠崎識人は指を鳴らした。

その音が響いたかと思えば。

鬼怒川が所持していた動画が削除される。

彼女が撮っていた旧世代の録画機ですらも、だ。

最初から、遠崎識人に、弱みを握る事等出来ない。


『鬼怒川くん、遊ぼうか』


そう言い放ち。

遠崎識人は、鬼怒川を誘った。





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ゲームで敗けたら退学になる学園、ポイント肩代わりで絶対服従に出来る環境、敗北したヒロインを服従させて、ついでに高飛車クズヒロインも服従させる、現代ファンタジー 三流木青二斎無一門 @itisyou

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