一方その頃



「…VRChatが阿鼻叫喚だけど、これは何なの?」


先程起床したのか。

気怠そうに頬杖を突きながら耳元で聞こえる生徒達の声に苛立ちを覚えていた。


彼女は視界に展開されたスクリーンを見つめながら、困惑した顔をしていた。

画面の向こう側では、複数のユーザーが混乱に満ちたメッセージと声を送り続けている。文字が次々と流れ、混沌とした音として彼女の耳に響いていた。


『何やら匿名のプレイヤーがPVPをしたみたいで…』


仮想空間で立ち尽くす同級生。

彼女の取り巻きの一人であり、相手は少し戸惑いながら説明を行っていた。


「…〈PVP〉での敗北?そんなの、よくある事でしょう?」


『いえ、PVP専用のバトルグループが複数居るんですが、どうやらそのメンバーの殆どが匿名に倒されてしまったみたいで』


彼女は驚きのあまり目を開き、その言葉を繰り返した。


「殆ど…?匿名は一人なんでしょう?」


その問いに、彼女はうなずいた。


『そ、そうなのですが…マッチングルームが最大で20も作られていて、ルーム作成者の殆どが匿名でプレイされていて…全員がマッチングで敗北したと…』


彼女の声は震えていた。

それは彼女に対しての畏怖。

絶対的存在を前にしての震えだった。


「…匿名で、…ゲームを殆ど同時に…?」


彼女は眉をひそめ、考え込んだ。

これが単なる偶然であるはずがない。

何か大きな陰謀が渦巻いているような気がした。


『はい、名のあるグループが悪戯で匿名でPVPをしたのかとも考えられましたが、20名以上のPVP専門グループは限られてます。他のPVP専門グループが犯人捜しをしていまして…』


「その結果、戦争が避けられない状況になるかもしれないという訳ね」


『は、はい…』


「まったく…仕方が無いわね…私が探してあげるわ、その、犯人と言う輩を、…尤も、真相を確認した後に、どうするかは私が決めるけど」


可笑しな事を言う。

匿名である相手を、見つける事が出来ると。


『それは心強いことです』


彼女の声には感謝が滲んでいた。


「別に、これくらい、私の国では出来て当然ですもの…それこそ、世界有数国民である、この私だからこそ出来る、特権でしょうけど」


彼女は少し微笑みながら、自らの立場を再確認する。


ゲーティア皇国。

生体プログラムである〈イデア〉を開発し、仮想世界〈ニューロ・ディング〉を世界的に展開、あらゆる企業が交渉時に利用するVRG〈Fight/destinyファイト・デスティニー〉を作成。


歴史上二番目の非武装国家でありながら、電脳騎士団と呼ばれる国家公認ハッキング集団による世界各地の秘匿情報の保持と核弾頭の電子制御の実権を握り、世界中に牽制と表向きの和平を結んでおり、過去に一度、それを利用して国を一つ滅ぼした実績を持つ。


実質的世界を征服した世界最初の世界統一者である。

ゲーティア皇国からの留学生である、ソユワーズ・アンドロマリウス・シルヴァイト。

伯爵令嬢である彼女は、上位皇族としての特権を所有している。


「ゲーティア皇国・生体№XXX-3000、ソユワーズ・アンドロマリウス・シルヴァイト、仮想空間〈ニューロ・ディング〉に接続」


その言葉と共に、彼女の視界が一変した。

彼女の声が自室に響くと、周囲が一瞬にして静寂に包まれた。

次の瞬間、彼女の意思はデジタルの空間を駆け巡り、電脳世界への扉が開かれた。

彼女は豪華なアーケードのような電子の領域に足を踏み入れた。


ゲーティア皇国の〈ウィザード〉。

その能力は、電脳世界への移動が可能となる、と言う破格の能力であった。

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