神業

〈PVP〉が始まった後。

様々なマッチングルームから阿鼻叫喚が響き出した。

匿名のプレイヤーを狩ろうと息巻いていたプレイヤーたちは、その圧倒的実力に対して驚嘆の声を響かせていた。


『糞ッ、なんだコイツッ!』


トランプを弾丸の様に飛ばす事が出来るアヴァター〈コードディーラー〉。

ランクが上がれば上がる程に、カードを射出した時、自動で対象に命中するAIシステムがある。

しかし、このAIシステム以外にも、一枚一枚のカードの動きを予め線引きする事でその軌跡の通りにカードを動かす事も可能と言う実力行使プレイヤースキルが前提のモードが存在する。


AIシステム入りの〈鬼札の兵カードショット〉は対象を視認すれば数秒間の追尾機能も発動するのだが、対象を視認出来なければAIシステムがOFF状態となってしまう。


しかし、予め動きを線引きすれば、対象を視覚内に留めなくとも、カードが軌跡の通りに動く事が出来、その軌跡内にアヴァターが居ればヒットも可能。


『〈コードディーラー〉でそんな動き出来るのかよ!!』


相手は叫びながら〈コードディーラー〉を睨んだ。

既に〈鬼札の兵カードショット〉によって両足を負傷、片腕は破壊され機動力を失われていた。

しかし、上空に天使の輪の様に広がったトランプのカードが、相手の逃げる動きを予測しながら肉体を貫通する。

一枚一枚のカードの動きを線引きするのにも、頭を使う作業なのだが、54枚のカード全ての動きを一枚一枚丁寧に線引きをして、その全てのカードが相手に命中させる事など、神業の所業であった。


他のバトルスペースでは、匿名プレイヤーは〈ジュエリージャム〉と言うアヴァターを使用した。

二足歩行型のアヴァターでは無い極めて珍しい液体型のスライム・アヴァターであり、大抵のプレイヤーがこの液体型を使用すると、手足をイメージして肉体を人間寄りの構造、行動をするものなのだが。


『液体生物の〈ジュエリージャム〉をッ、そいつを扱える奴、殆どいねぇぞ!!』


その匿名プレイヤーの動きは、まん丸の球体型として活動し、その粘液体を生かして壁や天井に張り付きながら不規則に移動をすると、〈深海の石アクア・マリン〉となって硬質化した肉体で敵アヴァターを押し潰した。


他にも、その敵プレイヤーは〈ショットスリンガー〉と呼ばれる銃火器を使用するアヴァターを操作し、匿名プレイヤーは〈クロスエッジ〉を使用している。

基本的に〈クロスエッジ〉は遠距離系の武器を持つ相手とは相性が悪い。

〈ショットスリンガー〉は正に天敵とも呼べる存在であり、プロが〈クロスエッジ〉を使用しても、その殆どのアヴァターロストの原因が遠距離系の武器である。


『はあああ!?〈クロスエッジ〉に〈ショットスリンガー〉が敗けた!?銃火器所持だぞッ!弾丸弾きやがった!!』


であるのに、AIアシストをOFFにした状態で〈ショットスリンガー〉の弾丸を〈一対の剣〉で弾いて接近し、アヴァターを撃破して見せる。


殆どプロゲーマーでもAIアシストをONにした状態でも弾けるかどうか分からないと言うのに、そのアヴァターは完全に常軌を逸した実力を示した。


匿名プレイヤーによる全試合全勝と言う状態。

参加していたプレイヤーたちは驚き、有り得ないと言った様子で叫んでいた。


『おいこれ、プロが紛れ込んでるって!!』

『なんだぉ…なにが起こってやがんだッ!?』

『糞ッ!俺のポイント、返しやがれッ!!おい!!』


彼らの言葉の波は、次第に〈PVP〉の枠を超えて、匿名掲示板や、学園専用のSNSでの呟きによって波及を呼んだ。

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