11面同時進行

遠崎識人の〈イデア〉から音が響く。

それは、マッチングが完了したものを示していた。

ゆっくりと目を開く遠崎識人。

次々とマッチングが完了していくのを見ると、目で何件マッチングしたのかを確認した。


「(…いち、に、さん…11件が参戦したらしいね)」


遠崎識人は数え終わると、少し退屈そうにベッドに腰掛ける。

手には野菜ジュースを持っており、それを飲みながら、剣呑とした様子で見つめていた。


「(少ないなぁ…まあ、こんなものか)」


匿名の〈PVP〉、それも一回1万ポイントを賭けてのバトルだ。

そう易々と乗って来る者は居ないのだろう。

同時に出現した匿名〈PVP〉など、怪しいにも程がある。


それよりも。

遠崎識人は首を傾ける。


「(それじゃあ…11面で)」


残念そうに思っても仕方が無い。

遠崎識人は、〈イデア〉に組み込まれた特殊ツールを起動した。

スポンサーが用意してくれた練習用のアプリであり、学園用の〈Fight/Destiny〉にも使える事に対して幸運を感じていた。


「(同時平行思考試験用に切り替えて…っと)」


同時並行思考試験用。

複数のゲームを、同時に動かす事が出来るアプリである。

遠崎識人はこれを〈Fight/Destiny〉に通した。

元々、〈Fight/Destiny〉は人間の可能性を拡張する為、と言う名目を以て作られた〈超人計画〉と言う名を冠したゲームエンジンを下地に作られている。

元々、開発したのは、ある皇国であり、軍事開発された代物だ。

一人のプレイヤーが二体のアヴァターを動かす事で、思考能力を拡張させたり、盲目のプレイヤーが、安全に周囲の建物や人物を感知させるエコロケーション技術を獲得させたりする、と言った事が出来るスキルアップが期待出来る代物だった。

其処から紆余曲折があり、皇国は〈超人計画〉を〈Fight/Destiny〉に組み込んだのだ。

結果、〈超人計画〉のゲームエンジンが埋め込まれた事で、遠崎識人は〈超人計画〉に関連する特殊ツールを使い、複数の画面で〈Fight/Destiny〉をプレイすると言うゲームシステムを突いた裏技を使用していた。


「(うん、全画面、通常に動くね、最新型イデアだと〈100〉画面同時でも通常で動かせるらしいから、当たり前か)」


遠崎識人は脳内でその様に呟きながら動きを確認する。

十分に行動出来る事を確認した所で、複数のマッチングルームに目を向けた。


「じゃあ早速…対戦宜しくお願いします」


律儀に挨拶をする。

そして、遠崎識人はゲームを開始した。


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