救けてくれた人


「…実際の所、私も分かってないの、こうして、ポイントを失って、負債証書に名前を書いて…遠崎くんに抱かれた時から、まるで夢の中に居るかのようにふわふわしてるの」


遠崎識人と主従関係となって、感情の変化が追いつかない。

それでも不思議と悪い気持ちはなかった。

もっと別の感情を思い浮かべている。


「遠崎くんに対して、怒っている気持ちは無いから…だってあの時、誰も手を差し伸べて居なかったら…多分、鬼怒川くんの方に、サインをしていたかも…」


少なくとも遠崎識人は白宮桃花を窮地の中から救ってくれた。

それは確かに恩義を感じている。

もしもあの時遠崎識人が名乗れてなかったら今頃は彼女の人生はめちゃくちゃになっていただろう。


「そうしたら…きっと、私は、鬼怒川くんに、色んな弱みを握られていたかも知れない…」


遠崎識人よりももっとひどい目にあっていたはずだ。

それだけはまず確かな事だった。


「そう考えれば、私は、遠崎くんに拾われて良かったって…」


微笑みを浮かべる白宮桃花。

その言葉だけで遠崎識人は救われたような気がした。

そんな表情を浮かべて見せた。


「…ありがとう、嬉しいよ」


だんだんと自分の感情を口にしていてこの気持ちは何であるのか白宮桃花は形容していく。


「…遠崎くん、あのね、私の事が好き…って、事は」


それを確かめるように白宮桃花は遠崎識人に聞いた。


「…その、私も好きだったら、付き合ってくれるの?」


遠崎識人は息をつく事もなく彼女の言葉に同意した。


「勿論、だけど、さっきも言った様に、…俺はこの関係が落ち着いているんだ、負債証書と言うものがあって、初めてキミと対等に話せる…逆を言えば、負債証書が無ければ、キミは俺とは話してくれない気がしてならないんだ」


今ではこの関係だから安心出来るものがある。

遠崎識人はそういう言い訳を口にしていた。


「そんな事、無いと思う、けど」


たとえこの契約がなかったとしても。

白宮桃花は遠崎識人に対する感情は変わらないものだと思っていた。


「それを信じられる程の勇気があればどれ程良かったか…やっぱり、俺は卑怯者だなぁ…」


冷静な表情が崩れた。

それは白宮桃花にとって初めて見る遠崎識人の顔だった。

自分だけに遠崎識人のその表情を見せてくれる。

自分が特別だと白宮桃花は思ってしまった。


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