所有物






遠崎識人は周囲を見渡した。

彼らの悪事を抑える決定的瞬間を捉える事のできる監視カメラはどこにもなかった。


「良いね此処、監視カメラが無いからやりたい放題だ」


ここならばどんな事をしても許されるだろう。

監視の抜け穴であり、生徒たちの唯一の監視の目から逃れられる場所であった。

その事を行動で教えてくれた彼女たちに感謝の気持ちは残っているのだが。

しかしそれでも超えてはならない領域というものがあった。

これが他の生徒が他の生徒に対して何か行動を行うというのならば遠崎識人は黙って見逃しただろう。

それが知り合いであったとしても遠崎識人は何も思わないし今後の付き合い方を改める事もない。


「だからと言って、彼女を傷つける真似は許されないけどね」


少なくとも遠崎識人にとって鞭野瑪瑙は違った。

それはある意味特別とも言える事だろう。

遠崎識人の気さくな登場に男子生徒たちは鼻が曲がりそうな勢いだった。


「何言ってやがる、ヒーロー気取りか?」


「おい、本登、誰だよコイツ」


同じクラスの生徒である事を彼女は知っている。

それも今話題の中心である生徒だ。

クラスの中で遠崎識人の名前を知らないものはいないだろう。


「…遠崎識人さん、ですね」


せっかくの復讐を邪魔されたくない。

無駄かもしれないが彼女は遠崎識人に一言断りを入れる。


「申し訳ありませんが、彼女はこれから、制裁を受ける所です、それを邪魔する様な真似はしないで頂きたい」


彼女の言い分に対して遠崎識人は頷いた。


「うん、キミたちの言う事も尤もだよ」


理解はできる。

だが納得はしない。

それ以上に彼女たちの方が理解していなかった。

その事を遠崎識人は彼女たちに向けて告げる。


「だけど悪いね、鞭野さんはもう俺の所有物なんだ」


ゲームに負けて多額の借金を背負う事になった鞭野瑪瑙。

彼女の処遇その権利。

全ては遠崎識人の手元にある。

それは逆を言えば自分の所有物を傷つけるという事だ。

それだけは決して許されない行為だと遠崎識人は言っているのだ。


「俺のものを傷つけると言う事は、それ相応の覚悟が必要だけど、準備は出来ているのかい?」


柔らかな微笑みに冷めた目つきが彼女たちに突き刺さる。

一瞬肉食動物に睨まれた、そう錯覚するほどの雰囲気に包まれていた。

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