主人公に染まるヒロイン
「あいつ、何を考えているか、分かんねえからなぁ…」
「白宮さんには、手を出さないよな…?」
「俺好きだったのに、それは無いって…」
男子生徒は気落ちしている。
常日頃から自分たちが妄想に耽っている時に使用する相手だ。
みんなの夜のお供をまさかポットでの遠崎識人によって奪われてしまうとは思わなかった。
遠崎識人が彼女を抱かなかったという一縷の望みだけを抱いている。
そういった話の中で教室の扉を開ける遠崎識人の姿。
いつも通り平常運転と行った様子でクラスメイトの方を見ながら挨拶を行った。
「やあ、おはようみんな」
軽く手を上げて爽やかな笑顔を浮かべる。
その表情だけ見ればどこにでもいる優男に見える。
しかし先日の遠崎識人の行動を見ていたクラスメイトたちはどこか遠崎識人とは一線を引いた状況で引きつった笑みを浮かべながら挨拶を返した。
「あ、あぁ…おはよう」
「おはようございます」
挨拶を終えると遠崎識人は何事もなかったかのように自分の机と鞄を置いて椅子に着席した。
遠崎識人のいつもと変わらない様子に前の席にいた男子生徒が話しかける。
「…なあ、遠崎」
クラスメイトの声に遠崎識人は反応した。
先日の行動とは裏腹に気さくな態度だった。
「ん?どうしたんだい?」
遠崎識人はクラスメイトに聞き返した。
クラスメイトは遠崎識人と彼女たちは一緒じゃないのか聞こうとした。
「えっと…二人、とは、その…」
そうクラスメイトが聞くと遠崎識人は何かを思い出したかのようにその話題についてやめるよう促す。
「あぁ、ダメだよ、プライベートの事を聞いたら」
あくまでも落ち着いた様子で対応する。
そう言われたらそれ以上のことは聞けなかった。
「そ、そうだよな、悪い…」
一言謝りの言葉を口にするクラスメイト。
それを聞いていた他のクラスメイトたちは一気に話題の種とした。
「本当にやったのか?」
「もしもやってたら、俺だったら自慢するな」
「俺も…じゃあ、まだ未経験って感じ…か」
遠崎識人と彼女たちが一夜を共にしたのならば一緒に登校してくるのが有力だろう。
しかしそれがないということは少なくとも遠崎識人と彼女たちは同衾していなかったという証明にもなる。
一縷の希望が一気に跳ね上がる。
まだクラスメイトたちにもチャンスはあるのだとそう思った。
その矢先。
遠崎識人が着席した数分後に彼女たちがやってきた。
白宮桃花と鞭野瑪瑙の二人だ。
「…」
「…」
女子生徒が白宮桃花のみに話しかけた。
「お、おはよう、白宮、さん」
彼女はクラスメイトの言葉にうなずくだけで返事はしなかった。
さすがに彼女たちの様子がおかしいことに感づいていたクラスメイトたちは一気に絶望の色に染まっていった。
「…おい、あの雰囲気」
「嫌だ…嘘、だろ」
明らかに、二人の雰囲気は昨日とは違った。
何処か子供っぽさが残る二人には、怠気と共に色気を帯びている。
下半身の動きも何処かぎこちなく、口数が少なかった。
何処か病気でもしているのかと、疑いたくなる程に。
クラスメイトたちは彼女らの反応を見て確信した。
「あぁ、遠崎識人に処女を奪われたのだな」、と。
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