遠崎識人の強さ


ゲームが終了したところで遠崎識人は一息ついた。

彼女たちはうなだれている。

遠崎識人の実力を肌で感じて敗北感を味わっていた。

そのうち鞭野瑪瑙が唇を震わせて遠崎識人に向かって叫んだ。


「あ…あんた、何者よ…ッ」


遠崎識人は首を傾げる。

何者だと言われても彼女たちと同じ人間だと遠崎識人はそう言おうとした。

しかし遠崎識人の言葉を待たずして鞭野瑪瑙が自分の腹の奥に溜まった言葉を吐き出した。


「こんな私でも、お姉様に鍛えて貰って、実力だけならCクラス相当の人間なのよ!?それなのに、私よりも、あんたの方が上って、おかしいじゃない!!」


そんな彼女がEクラスに甘んじているのは彼女が慕うお姉様がそう命令したからだ。

彼女が本気を出して昇格していけばC

クラスの中堅ぐらいにはなれるだろう。

だからこそある程度実力の差というものは分かっていた。

実際に戦ってみて遠崎識人は自分よりもはるか上を行くレベルに達していると。


「入学試験は勿論、転入試験だって、自分の実力を示す為に教師とのバトルで成績を決めるのよッ、あんた、実力だけならAクラスじゃない、なのに、なんでEクラスなんかに居るのよ!!」


彼女の悲痛な叫びに対して遠崎識人は首を傾げる。

そう言われてみればなぜ自分がEクラスにいるのかわからないと言った様子だ。


「んー…そう言われてもなぁ、確か、転入試験の時には、友人に誘われて食事をしてたんだ、それで、転入試験は受けられなかった気がする」


遠崎識人は当日の事を思い出す。

大事な時期だとスポンサーからは言われていたのだが思わぬスケジュールの更新によって友人との食事を優先し転入試験をすっぽかしてしまった。

常識では考えられない事だった。


「は…あ?なに、それ、普通、自分の人生が掛ったもんを、そんな無碍にする様な真似、しない筈でしょ!?この社会は、プロゲーマー以外は負け組なんだからッ!!」


この社会ではプロゲーマーこそが世界の頂点に立つ。

だからこそほとんどの学生はプロゲーマーになるためにゲーミングスクールで日々切磋琢磨しているのだ。

遠崎識人は根本的な価値観の違いがあった。

プロゲーマー以外の人生など敗北者の末路でしかない。


「そう言われても…まあ、教師の考えなんて、俺が知る筈が無いし…知った所で、意味なんてない」


本来ならば転入試験に不参加だっただけでも確実に落とされているだろう。

それでも遠崎識人がEクラスとして転入出来たのはまさに破格の条件と呼べた。


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