第一回戦終了


「(首、違和感、斬られた、一瞬、やばい、血がッ)」


一対の剣ダブル・ソード〉の片方を手から離すと、首元を抑えて止血を行う。

だが、その行動を見越して、遠崎識人は彼女が落とした〈一対の剣ダブル・ソード〉を触手で拾うと共に踵を返す。

片手剣の切っ先を彼女の心臓部位に突き刺すと共に、鞭野瑪瑙が居る方向へと走り出す。

触手は伸縮自在で、彼女の武器を引き抜くと、そのまま鞭野瑪瑙目掛けて片手剣を投げる。


「ッ、きゃ」


正確無比な片手剣の軌跡が、〈スプリンガルド〉の胴体目掛けて飛んでいく。

彼女は地面を蹴って、片手剣を避けた。


「(こっちは、狙いを定めるのも難しいの、にッ!?)」


そして、一気に詰めた遠崎識人が目の前に居た。

この状況では、逃れる事が出来ないと、彼女は察した。


「残り10、で…何とかセーフだね」


彼女が防御態勢を取るよりも早く。

遠崎識人の触手の鉤爪が、彼女の首を絞めつける。

絞殺ではない、触手の鉤爪を深く食い込ませて、首の骨を折った。

それと同時に、遠崎識人が操る〈オクトコンパス〉が状態異常〈枯渇〉を発症したが、〈スプリンガルド〉を操る鞭野瑪瑙の方が先だった。

機械で出来た肉体を、頭部と胴体に分ける様に、分断したのだ。

この一撃を以て、第一回戦が終了する。

結果は言わずもがな、遠崎識人の勝利だった。


第二回戦が始まる時。

スキル選択画面で鞭野瑪瑙は心臓を高鳴らせていた。

たった一回、それでも戦えば分かる。

最初に戦った時、敗北したのはアヴァターとの相性の問題だと思っていた。

だが、この二回目で、それは違う事に気が付かされた。

それは単純のプレイヤースキル。

鞭野瑪瑙と遠崎識人の間には天と地程の実力差が出来ている。


「なんで、こんな、筈はッ…」


脳内で思い描いていた展開は既に絵空事。

それ以上に、自分の実力が遠崎識人よりも劣っている事に、鞭野瑪瑙は有り得ないと言った様子で狼狽していた。

そんな彼女の姿を見て、白宮桃花は彼女に語り掛ける。


「…鞭野さん、一旦、落ち着いて」


冷静になって欲しいと願う。

この戦闘は、二人が協力して戦わなければ勝てない相手だ。

それなのに、意志疎通が出来ない状況は極めて好ましくない。

だから、白宮桃花は彼女を諭すのだが。


「あんたは黙っててッ!私が、敗ける筈が無い…最初から、自分の力で戦えば…」


既に、協力など不可能な状態だった。

目に見える敗北を前に、白宮桃花は諦めを抱く。


「(…あぁ、これは、これはもう、ダメ、なんだ)」


孤独を感じる白宮桃花。

遠崎識人には、絶対に勝つ事は出来ない。

白宮桃花ですら、それを感じ取れる程だった。


「(私達は、敗ける)」


彼女の思い描く通りに、ことが運び出した。

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