秘密の会議

「(あいつは〈オクトコンパス〉を使うって言ってたわね、あのアヴァターは蒼界種族、水のある場所だったら強くなるけど、逆に水の無い場所や温度の高い場所だと性能に異常を兆す)」


だとすれば。

鞭野瑪瑙は近くに居た白宮桃花に話し掛ける。

しかし、それだと部屋の中で囁いても聞こえてしまう。

なので、〈イデア〉経由の通信アプリを起動して白宮桃花に直接語り掛ける。


『ねえ、あいつは〈オクトコンパス〉を使用するから、ステージは砂漠エリアにするわ、状態異常〈脱水〉を発生させるから、人界種族のアヴァターの選択は止めておきなさい』


そう鞭野瑪瑙は言う。

白宮桃花は小さな声色で彼女の脳に語った。


『ごめんなさい、鞭野さん、私の使用するアヴァター、殆どが人界種族なんだ…〈オクトコンパス〉の弱点って何かあったっけ?』


『それくらい攻略サイトでも見なさいよ…あぁもうッ、〈オクトコンパス〉は確か、切断系のダメージが苦手だったから、それが使えるアヴァターは居ないの!?』


指を動かしながら、白宮桃花は確認する。

扱えるアヴァターは僅か三体程だが、どうやら〈オクトコンパス〉が苦手とする切断系ダメージを発生出来るアヴァターを所持していた。


『うん、大丈夫…これで何とか』


「内緒話は終わったかい?」


遠崎識人は二人の顔を見ながら言った。

通信アプリは対象以外には声が聞こえない。

であるのに、遠崎識人は二人が作戦会議をしている事を看破して見せた。

驚きの表情を浮かべる白宮桃花と鞭野瑪瑙。

彼女達が目を丸くしている様を見て、遠崎識人は思わず笑ってしまった。


「何も、そんなに驚く事じゃないだろ?…二人も居るのに、何も言わず画面だけ見つめてたら、俺には内緒で話をしていると察するに決まってるじゃないか」


確かにそうだった。

秘密の話を、秘密にしたい相手の前でするのならば、口を開いて話をする、ダミーをしておかなければならなかった。


「うん、良いよ、それはとても、二人とも、真剣にやっている証拠だ、これは楽しくなりそうだよ」


にこにことしながら遠崎識人は言った。


『くッ、調子に乗ってッ!!』

『…』


二人は話し合いを続ける。

そして、ある程度の対策を設けた末に、漸くゲームを開始する事に決めた。


「決めたわ、先ず、ステージは〈熱し不朽の砂地ホットプレートサンド〉で戦う」


鞭野瑪瑙の言葉に、遠崎識人は頷いた。


「うん、それが良いだろうね、〈オクトコンパス〉にとっては致命的なステージだ」


悠々とした態度で遠崎識人は言った。

アヴァターが弱体化する筈なのに、遠崎識人は関係ないと言った具合だった。


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