靴を舐めろ
「いや…いやッ」
頭を抱えて首を左右に振る。
今まで以上に惨めに思った事は無い。
そんな彼女の後ろで、遠崎識人が話し掛けた。
「鞭野さん、マジで感謝、こんなに沢山、ポイントなんてくれて」
両手を合わせながら、遠崎識人は感謝の言葉を口にする。
鞭野瑪瑙は遠崎識人の方を睨んだ。
「元はと言えば、あんたのせいでしょッ!あんたのせいで、私はこんな小汚い負け犬と同じになったのよ!ねえ、返して、返してよッ!私のポイントッ!!」
と。
遠崎識人に対して叫ぶ。
昼の十二時まで残り五分。
最早、誰も彼女にポイントなど渡さないだろう。
しかし。
「あぁ、確かに…キミの泣く姿を見ると、少しだけ心が痛くなるよ、…流石に、ポイント全取りは、やり過ぎだと思っている」
そう遠崎識人は言った。
涙を流していた鞭野瑪瑙は彼に視線を向ける。
まさか、泣き落としが通用するのか、とそう思った。
「やめて!!遠崎くん」
「こんな奴、同情する意味なんてない!!」
「ポイントなんてあげないでよッ!」
そんな女子生徒たちの悲痛の声。
それを無視する様に、遠崎識人は首を傾けながら〈イデア〉を操作していた。
「えぇと…どうすれば良いんだろうか、ここの学校のシステムは複雑だ、ポイント、譲渡のやり方があまり分かって無いんだよなぁ」
そう言いながら困り眉をしながら遠崎識人は操作をしている。
本当に、ポイントを返すつもりなのか、鞭野瑪瑙は期待に胸を膨らませる。
しかし、二分。三分と時間だけが過ぎていく。
「ちょっと!!早く、早くしてよ!!」
「待って欲しい、これでも機械音痴…いやイデア音痴なんだ…えぇと、これか?いや、違うな、あ、間違えた」
そして、鞭野瑪瑙の視界ウィンドウの前に、画面が出現する。
それは負債証書だった。
「悪い、間違えた…くそぅ、本当に分からないなぁ」
十二時になるまで三十秒を切った。
この様子なら、もうポイント譲渡を発見しても間に合わない。
「ちゃんと、ちゃんとッ!私にポイントを返してよッ!!」
そう言いながら、仕方なく、負債証書に自らの名前を記入する鞭野瑪瑙。
取り敢えずは退学さえしなければそれでいい。
後で女子上級生に身分を取り返して貰えば、また何時もの日常に戻る。
だから、鞭野瑪瑙は負債証書にサインをした。
決定ボタンを押し、十二時を切った頃には、遠崎識人が彼女のポイントを代わりに支払う。
「はぁ…はぁ…これで、…一先ず、大丈夫」
一時はどうなるかと思った。
だが、これで退学だけは免れた。
安堵して、笑みを浮かべる。
そして、先程、教室を塞いでいた女子生徒達に視線を向けた。
「あんたたち、さっきは…さっきはよくも、邪魔をしたわね…お姉様がたに報告するわ、どんなプレイでも可能にして、壊れるまで使い続けてやるか…」
最後まで言い切る事は無かった。
隣に居た遠崎識人が、彼女の髪を思い切り引っ張ったのだ。
「許可なく喋るな、先ずはやる事があるだろ?」
「い、ったい、な、何、するのッ!さっさとポイント、返してよッ!!」
髪を引っ張られながら、遠崎識人に口答えするが。
「…お前、バカだなぁ」
遠崎識人は冷めた声色で言うと、彼女の髪を引っ張って、床に張り倒す。
「もうお前は俺の所有物だ、分かるかい?奴隷なんだよ、俺の」
そうして、無表情の顔に笑みが貼り付いた。
「退屈な学園生活が始まると思ったけど…これで少しは楽しめそうだ、なあ?鞭野、それと、…白宮」
背後に居る白宮桃花にも話し掛ける。
負債証書を渡したのは、鞭野瑪瑙一人だけじゃなかった。
白宮桃花にも、遠崎識人は負債証書を渡し、彼女は其処にサインをしたのだ。
「…取り敢えず、服従の儀式でもしておこうか」
遠崎識人は言う。
床に向けて指を向けた。
「這いつくばって」
犬のような格好をしろ。
それが遠崎識人の命令である。
「何を、そんなの、するわけが、あ」
言葉とは裏腹に。
鞭野瑪瑙の体が床へと手を突いた。
《イデア》は次世代パーソナルコンピュータ。
肉体に電気信号を送る事で、運動神経の補助などをしてくれるフィジカルサポートもしてくれる。
逆を言えば。
肉体は、イデアに支配されていると言っても良い。
零算学園は国家公認のゲーミングスクールだ。
プロゲーマーの育成がどれ程重要であるか熟知している。
故に多少の違法行為も黙認されている。
敗者を支配する事が出来る負債証書。
これには責務者の命令を聞く電気信号を発する。
これにより、鞭野瑪瑙は遠崎識人に逆らう事が出来なくなった。
「なん、で、私が…こんな目、にッ」
床に向かって頭をこすりつける鞭野瑪瑙。
彼女の意思とは関係なく強制的に行わされている。
その事に関して彼女は強く屈辱を覚えた。
なぜ自分がこのような目に遭わなければならないのか。
自分よりも格下であるはずの相手に敗北してこうして頭を下げなければならない。
悪い夢でも見せられているかのようだった。
「うん、その屈辱を噛み締める姿、とても可愛らしく見えるよ、それはそうと、まだ終わりじゃないんだ」
楽しそうに遠崎識人はゆっくりと彼女の前に足を伸ばした。
新品同様の上履きの靴底を鞭野瑪瑙に向ける。
一体何をするつもりなのか。
遠崎識人は淡々と言った。
「新しいご主人様の、足を舐めろ」
母親に醤油を取って欲しいと言うほどの気軽さだった。
まさか本当にそんな事をしなければならないのか鞭野瑪瑙は体を無理やり動かそうとする。
だけど彼女の意思とは裏腹に支配された肉体が遠崎識人の言葉を遵守しようと動いていた。
柔らかな舌先を伸ばす。
嫌悪感を抱く彼女は精一杯舌先に唾液を垂らした。
靴の裏の味など覚えたくなかった。
だから精一杯の彼女の反抗心だった。
「んぺ…ぇあ…ぺちゅ…っへぁ…」
そして彼女の舌先が上履きの靴底を舐めた。
丁寧にゆっくりと。
アイスクリームを舐めるかのように靴底の溝の部分の汚れを取るように舐めとった。
彼女は涙目になっていた。
自尊心に亀裂が走った。
「うん、とても良いよ、鞭野さん、一回、休もうか」
遠崎識人の掛け声によってようやく鞭野瑪瑙は上履きを舐めるのをやめる。
「く、ふっ…ふざけ、んな…ふざけんな…このぉ…ぅぅぅ」
嗚咽を漏らしながら涙を流してすすり泣く。
四つん這いになった彼女に遠崎識人は肩に手を添えた。
「でもまだ終わりじゃないよ、今度は俺の部屋で遊ぼうか」
楽しそうに笑みを浮かべながら遠崎識人はそう言うのだった。
「ふざ、けるなっ、鬼畜、きちくっおにぃ!!」
鞭野瑪瑙は何度も遠崎識人を罵った。
遠崎識人は彼女の言葉に対して命令を行いやめるような事はしなかった。
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