第48話 旨味を知らぬとは何たることだ!

 乾燥おやつならぬ、乾燥フードが一斉を風靡するウエスタン。

 それはついに、貴族の耳にまで入った。

 最初こそ「冒険者の食べるモノなんて」と嫌煙していた貴族だが、コッソリ買って食べているメイドたちが居たことであっという間にその美味しさをしり、最早戦争状態になったのだ……。



「こうなると、最早収集が付かない」

「どうします?」

「貴族への販売は正直考えていなかったのは俺の落ち度だ。だがどうしたものか」

「ミラーちゃん出し続けて貰って、最早黙々と動く私が一杯いすぎて気持ち悪いです」

「だよな」

「そりゃそうじゃわい」



 その結果、孤児院の事業にしようと言う事になった。

 そうなれば孤児院の孤児たちに仕事を渡せるし、私やミラーちゃんたちがする仕事は【乾燥付与】のみで良くなるのである。



「ただ、お店がいりますよね。冒険者用は良いとしても、庶民用と貴族用」

「そこは商業ギルドから人を雇おう。身元がしっかりしている人を雇って、貴族用は男爵あたりの女性や男性を雇えばいい」

「なるほど」

「荷運びくらいはワシらがやっていいじゃろ。アイテムボックス1つで身軽じゃ」

「そうだね」



 こうしてシスターマーガレットたちにも相談した結果、孤児たちが孤児院を卒業しても就職が出来るのならと言う条件を受け入れ【フェンリル乾燥フード店】を立ち上げたのである。

 名前がストレートだけど、フェンリルが付いているからフェンリル教会がしているのが解るだろう。

 ましてや経営者がフェンリルの神格持ちともなれば、貴族もおいそれと手を出せない。


 無論働く子供たちには「この中の事は秘密にしないと、フェンリルの神様からお叱りが来るよ」と念押しし、段ボールで大人買いした商品を色々セットで入れて、少し値段を上げて販売する事が決まった。


 無論元々儲けがかなり入る様な値段で売っていたけれど、これからは賃金や家賃が必要になる為、仕方なくだ。

 また、庶民用のお店は商店街の潰れたお店を借りて中で店員さんを用意して販売が決まり、貴族店は高級店が並ぶ一角を借りて、貴族のお嬢さんなどを雇う事が出来た。


 これにて【フェンリル乾燥フード店ギルド部】【フェンリル乾燥フード店1号店】【フェンリル乾燥フード店2号店】と出せたのである。

 無論貴族は嫌いなので2号店だ。

 文句を言うなら買わなくてよろしい。



「後は週に1度か2度配達くらいにしとけばいいかな」

「毎日は難しいからな。それに旨い飯巡りも出来なくなるのはカオルも嫌だろう」

「嫌ですねぇ……。やっと美味しいもの巡り出来ますか?」

「なんでも、魔獣の肉を使ったスープ料理を食べられる店があるらしい。今日はそこに行かないか?」

「是非、行きましょう」



 それは楽しみだ。

 お菓子屋も良かったけど今はお休み中だし、私だって美味しいものが食べたい。

 各地の美味しい物を食べて「極楽じゃ~」ってなりたい。

 そんな事を兄に話すと「極楽は温泉じゃないのか?」と突っ込まれたけれど、美味しい物を食べて満足する……と言うのは、極楽と一緒なのだと力説した。


 多少ドン引きさせたところで、ミラーちゃんたちに【乾燥付与】をお願いしていざ、魔獣の肉を使ったスープ料理なるものを食べに行ったのだけれど――。



「ん~~……」

「ん~~……」

「アレじゃな」

「惜しいですね」

「ああ、アレが足りない」



 そう、旨味が足りない。

 私たちの肥えた舌を満足させられる程の料理ではなかった……。

 こう、塩味のついたスープに野菜とスープと言うアッサリした味。

 だが、アッサリしすぎている。

 お客さんたちは美味しそうに食べているけれど……私たちではちょっと……。



「出されたからには最後まで食べますけど~」

「何が足りないんだろうな」

「旨味だろう」

「旨味か」

「味が単純過ぎるんだ」

「じゃが、獣人は単純な味を好むと聞いたがのう」

「じゃあお爺ちゃんはポトフ食べてどうだった?」

「最高じゃったなぁ~~!」

「あれは、旨味があるからだよ」

「なるほどのう」



 そう個室で食べつつ味の追求というか、やはり、薄い。

 違う、こうじゃない。

 私たちが求めている味は違う。

 中華スープにもなり切れないなりそこないの味!

 畜生! これなら自分で作った方が何倍も旨い!



「うう……」

「す、すまないカオル。人気店だと聞いて……」

「まぁ、アレじゃな。カオルの料理の方が上過ぎて、ワシらでは満足できん」

「カオルちゃーん、これに似たレシピで美味しい奴を家で作ってぇ~?」

「……そうしましょうか」



 こりゃ家に帰ったら料理だな。

 そう思いつつ食事を済ませ、私たちはお通夜の状態で居住空間に帰り、サッとエプロンを装備するといざ料理!



「あんなものを料理などと言うとは身の程知らずめ! 片腹痛し!」

「カオルちゃんやっちゃってー!」

「あの料理をアレンジするならば、私ならこうだ!」



 と、オーク肉を使ったつみれ肉を作り、それをプリシアちゃんがスプーンで団子にする作業をしながら私は野菜を切ってつみれ肉を入れてと1人料理に没頭する。

 塩だけのスープ何て絶対可笑しい!

 塩系スープならこうでしょう!?

 寧ろ中華スープでいいよね!

 アッサリ塩味効かせた中華スープ最高だもんね!



「ふお! 旨そうな匂いがしてきたぞい!」

「腹が鳴るな」

「俺もだ」

「きゃー! カオルちゃん素敵――!」

「カオル 僕 大好きー!」



 声援の元、一時間後簡単に作った中華スープが出来上がり、ドンッと鍋敷の上に鍋を置くと、1人ずつよそってスープをお出しする。



「私の作った塩味風味のスープです」

「これじゃこれじゃあ! この食欲そそる匂いじゃよ!」

「もうあの店の料理食べた気がしませんでしたもんねー!」

「皆、すまない……。だが旨いと評判だったんだ……」

「お前は悪くない、悪いのは俺達の旨さに慣れ切ってしまった身体だ」

「ヴィーザル……君もそう思うのか?」

「人間国でもこんな旨い料理にありつけないぞ?」

「さ、温かいうちに食べましょう!」



 こうして簡単中華スープを食べる事になったのだけれど、味付けはやはりこうでなくちゃね。



「これじゃ、この旨味が足りんかったんじゃ!」

「おいひいれす~~」

「沁みるな……」

「心にもな……」

「はふ はふ」

「うま うま」

「手早く簡単に手抜きしたけど、やっぱりこれくらいないとねぇ」

「「「「おかわり」」」」



 その後は怒涛のおかわりが続き、あっという間にスープは消えた。

 消えたが満足した。

 私たちが求めていた味はこれだったのだ。



「こっちの獣人達て、旨いをあまり重視しないのかしら?」

「ふむ、可能性はあるな」

「食べればいいみたいな」

「だが、甘い物は好きなんじゃよな?」

「甘さに旨味は必要ないからじゃないかしら~?」

「これは、改革が必要ですね?」

「カオル?」



 その一言に、皆がバッと私を見た。



「ポトフ料理の復活です」

「なんと!」

「ああっ! ついに復活させてしまうんですね、このウエスタンで!」

「旨みをしったら他の食事が出来なくなってしまうぞ!」

「早まるな! 獣人達の心がまた死んでしまうぞ!」

「一度旨味を知ってしまえば、料理人も今ではダメだと解る筈です」

「そうかも知れないが、早まるなカオル!」

「だって――! このままだと美味しいものが食べれないんですー!」



 死活問題! 死活問題なんですよおおお!

 折角美味しいもんを食べ尽くしてやろうって思ってたのに、味覚が私は人間のままだから、獣人なら美味しく感じても私の舌では満足しないからー!



「もう暫く様子を見るんだ! 仕事をこれ以上増やせない!」

「うう……」

「せめて料理人のような獣人を仲間に出来たらのう?」

「それだわ。お爺ちゃんナイスアイディアよ」

「ウホッ」



 そうよ、作れないなら作ってくれる人を育てればいいのよ。

 いっそまるっと何処かから1つお借りするくらいの気持ちで。

 なんとかできないかしら……。



「明日、商業ギルドに行って料理人探してみるわ」

「そ、そうか」

「ほどほどに……な?」

「ええ! 美味し物の為に、是非野良ソロ獣人ゲットよ!」


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