第46話 仲間のストレス発散は大事です!

 拝啓お母さん。

 今、仲間たちと一緒に生まれ育ったダンジョンへ来ています。

 地下3階の素敵なフロアは今も変わらずで、地下におわすドラゴン族や赤蜘蛛達、そして黒豹たちにキメラたち。

 彼らと戯れながら、遊んでいる仲間がいます。

 何を仰っているか分からないと思いますが、仲間の4匹は大変楽しそうです。


 お土産、沢山持って帰りますね!


 愛する娘、カオルより。



 ――と、心で母に手紙を送った。

 というのも。



「わははははは! こりゃええのう! 肉がたんまりじゃ!」

「お爺ちゃんみてください~! 黒豹ですよ~!」

「あの牙は高く売れるぞ! 狩りつくすんじゃ!」

「わっしょーい!」



 と、逃げ惑う黒豹を倒しまくるお爺ちゃんとサトリちゃん。

 片や――。



「いーとーまきまき♪」

「いーとーまきまき」

「ひーてひーて♪」

「オーリハールコーン」



 と、赤蜘蛛相手に糸を奪い取ってオリハルコンでぶっ殺すスライムたち。

 そんな様子を見ながら、私と兄とヴィーザルは呆然と座って眺めるだけ。

 ヴィーザルは人間の姿に戻っているけれど、なんというか、なんというかアレなのである。



「ここって雑魚しかいませんでしたっけ?」

「いや、キメラなんかは強敵の筈だ」

「まだキメラと遭遇してないからだろう。カオルは地図スキルでキメラの場所を視れるだろう? 奴らは何処にいる」

「えーっと……すんごい端っこの方まで逃げていますね」

「「……」」



 ドガーンズガーンと音を立てて、ホワイトタイガーとフェアリードラゴンは真赤に染まり。大量の糸を巻いてゲットしたプリシアちゃんと、毎度お馴染み「オーリハールコーン」のラテちゃんはキャッキャと跳ねまわっている。

 どうしたらいいんでしょうねぇ、この惨状。



「ペットのストレス発散には付き合わないとな」

「そうですね」

「奴らはペットと言えるか」

「いえませんねー」

「テイムしてなかったら恐らくこっちがやられそうだ」

「は~~……」



 行きも切れ切れに遊んだ後は「アイテム回収お願いいまーす!」と言って走り去っていく。

 屍累々、私と兄はアイテムボックスを開いてそれらを次々中に入れていき、キャッキャとはしゃいでドラゴンに飛び込んでいく4匹を見て、遠い目をしたくなった。



「で、でもたまにはストレス発散は大事ですからね!」

「そうだな。俺もストレス発散がしたいよ」

「お兄ちゃんお疲れ?」

「添い寝しないか?」

「いいですよ、フェンリルの姿なら」

「ぐ……妥協点か」

「俺も馬の姿で添い寝する」

「じゃあ今日の夜にでも3匹で寝ますか」

「寝るとしたらリビングになるな……」

「まぁ、フカフカのペットの優しいマットレス敷きますから」

「それならまぁ。だが耐久度は犬までだろう?」

「そうですね……その上に何か敷きますか」

「それがいいな」

「じゃあ今日の夜は全員で寝るという事で」

「「全員……」」

「きっと癒されますよ」



 ニッコリ笑えば兄もヴィーザルも、NOとは言えない。

 ふはははは! 下心なんぞ見え見えだ!

 その心、ポッキリ根元から折ってやる!

 そして私はモフモフ姿でモフモフにモフッとされて眠られ幸せいっぱい!

 最後に得をするのは私なのだよ!

 と、心で叫びつつ天使の微笑みを返すと――。



「カオル」

「ん?」

「モフモフにモフッとモフられて寝たいだけだろう。俺の香りが一番好きだと言ってくれていたのは嘘だったのか?」

「それは――……」

「馬の毛艶も中々いいぞ?」

「くうっ そうですね!」



 不味い、私の萌え属性がバレてしまっていたか!

 いや、バレても仕方ないかも知れないが、それでも、それでも私は――!



「一番一緒に寝たいのは誰なんだ?」

「馬は愛情を注ぎながら寄り添って寝るぞ?」

「わわわわ……私が一緒に寝たいのは……」

「「寝たいのは?」」

「……サトリちゃんです。オスって硬いのよね」



 思わず本音が漏れて遠い目をする私。

 その様子を見て「硬い」と言われて凹む2人。

 そんな鎮魂歌が流れそうな3匹の前を、リンクしたドラゴンに追いかけられつつ、キャッキャうふふで駆け回るペットたち。

 しかし――。



「風神の爪ぇぇえええ!」

「斬鉄剣斬鉄剣斬鉄剣!」



 追いかけっこは急遽終わりを告げた。

 サトリちゃんも何かに気づいたらしく、私も慌てて地図で周囲を観察する。

 ――この真っ赤な大群はなに?。



「人間の声です」

「急いでアイテムボックスに入れて逃げよう」

「バレるとまずい、急ぐぞ」



 騎士団か魔物討伐隊のどちらか。

 魔物討伐隊なら非常に不味い。

 全ての倒した魔物をアイテムボックスに入れ込んだら、急ぎ居住空間に駆け込んで事なきを得たが、外の声を拾えるように兄にして貰うと、人間たちの騒めきが聞こえてくる。



「隊長! 魔物がほとんどいません!」

「可笑しい、確かに大量の魔物が発生したと連絡があったのに」

「でも地面を見てください。まだ戦った後ですよ」

「血が渇いてないな……」

「キメラの上位互換でも出たんでしょうか」

「あの封印の間はどうなっている!」

「封印は解かれた様子ありません。ですがこれでは何者かが魔物を倒し、直ぐに消えたかのような……」

「遊び半分で戦える相手じゃないっすよ?」

「……相当レベルの高い魔物がいるのかも知れない。注意して先へ進もう」



 そんな声が聞こえる。

 やはり魔物討伐隊だろうか……。



「彼らは魔物討伐隊だな。間一髪だったな」

「とても強いんですよね」

「ああ、魔物相手ではスペシャリストだ」

「キャッキャウフフって遊んでる場合じゃなかったんですね~」

「魔物討伐隊は危険じゃからのう……」

「よくお兄ちゃんたち気付いたね」

「嫌な気配がしたんだ」

「俺もだな」



 流石私の上位互換みたいなお二人……強い。

 取り敢えずストレス発散は出来たのと、アイテムはたんまり手に入ったので、暫くのお肉と路銀には全くこれっぽっちも困ら無さそうである。



「さて、お爺ちゃんもサトリちゃんたちもストレスは発散出来たでしょう? お風呂入って綺麗にしますよ」

「はい~!」

「ワシは誰が洗ってくれるかのう?」

「ボク が 洗うよ」

「すまんのう」

「はぁ……俺達も血生臭い臭いがするし風呂に入るか」

「そうだな」



 こうして私とサトリちゃんは私の居住空間でのお風呂となり、兄たちは男性陣でお風呂にとなった。

 獣人の姿になって一気に綺麗すれば手間も省ける! 最高ですね!

 そう言えば、前の人生では犬の散歩の後はおやつをあげていたけれど、サトリちゃんたちもおやつを食べるんだろうか?



「サトリちゃん」

「はい~?」

「食後のおやつと言えば?」

「お肉ですかねー」

「やっぱりお肉か~」

「でもでもー。カオルちゃんの焼いたクッキーも捨てがたいですねぇ」

「ふむふむ」

「何か変わったお菓子があればいいんですけど~」



 ふむ、ふむふむ?

 それなら、一度あちらの世界の犬用おやつを取り寄せてみるべき?

 どうなるのか反応が気になる。



「じゃあ、ちょっと変わったおやつ食べてみます?」

「変わったおやつですか?」

「ええ、異世界のペット用の御菓子なんですけど」

「おー、食べてみたいですねぇ」

「後で出してみますね」

「楽しみです~」



 さて、我が家が買っていたペット用のお店の商品、買えるかな?





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