第44話 囮調査だ! 今更気づいても遅い!

 意気込んで囮になりに向かった私とサトリちゃんを「後で行くよ」と見送ってくれた兄。

 というのも、見張り役がいるのでお見送りして貰ったのだ。

 しっかりと兄が「後で行く」と言っておけば相手も満足するだろう。

 こうして台車を押しながら向かった私とサトリちゃんをついてくるのは一人。

 もう一人は兄を待つようだ。



「ついて来てますね~」

「いつも通り行きましょう」

「うふふ、レジェンドモンスターの私を娼婦にするだなんて、笑えない冗談です」

「殺さないでね? 証言してくれる人は法で裁くから」

「残念です。今度ダンジョンで暴れるのを楽しみにしてますね~」



 ペット……の散歩ならぬ、テイムした彼らのストレス発散に倒されるドラゴン達。

 君たちのお肉は美味しく頂くよ。

 心で合掌しつつ、何時もの売り場に到着する前から後ろにお菓子を求める方々が付いてきている。

 人気店になったなぁ……と思いつつも、子供たちの事が終わったら食べ歩きして、もっともっと美味しい店を開拓するのだ。


 甘い物が多いウエスタン領。

 でも、食事って意外とシンプルなんだよね……。

 牧場? と言えばいいんだろうか、お肉になるモンスターを育てているだけあって、お肉料理はたっぷりある。

 今度ビーフシチュー作っても良いな……。



「ふふふ、何か考え事~?」

「うん、今度新しい料理を作ろうかなーって」

「楽しみです~!」



 そう言って笑い合う私たちを見て鼻の下を伸ばすお客さんたち。

 サトリちゃん可愛いもんね。

 見ていて癒されるしボインだしスタイルいいし、そりゃ男性陣は群がるわ。

 でも、元の姿に戻れば獰猛なホワイトタイガーのレジェンド様ですよ。

 皆さん怖いもの知らずだね!


 こうしていつも通り朝の販売が始まり、何時呼ばれるのか分からないけど販売が終わった頃だろうという事で、恐らく昼までは来ない筈。

 サトリちゃんが【聞き耳】で情報を集めつつ、私は笑顔で接客。



「もうここの御菓子を食べてると、他の所じゃ満足できないよ」

「ずっとここにいるって事は出来ないの?」

「そうですね、拠点としてはありなんでしょうが……何分旅をしながらですので」

「小さいのに旅を?」

「色々な領地を周って知見を広げている所です」

「小さいのに偉いなあ」

「カオルちゃんは偉いんですよ~?」



 そう笑顔で答えるサトリちゃんに男性陣はメロメロである。

 癒し枠のサトリちゃんに私もメロメロである。

 サトリちゃん可愛いよね!

 こうして朝の分を売り切ると、グルミンとクローがやってきた。



「おはようございます。今日は買えなかったなぁ」

「おはようございます。兄はお昼の販売が終わってから来るそうですが……」

「ああ、ならお昼に迎えに来るよ」

「サトリちゃんもその際是非一緒に」

「はい~」



 何故呼ばれたのかは、恐らく売る為だろう。

 サトリちゃんを売り飛ばそうとするなんて、命知らずな……。

 昔のサトリちゃんなら弱かったから危なかったけど、今ならドラゴンくらいなら一人で倒せますよ?


 そんな事を笑顔で思いつつ、孤児院に戻る前にいつも通り教会の前でお祈りを捧げるフリをしつつ戻り、サトリちゃんが聞いた内容を整理する。



「なんでもー。私とカオルちゃんを娼婦にするから高値で取引するって言ってましたねー。売る場所は【エデンの園】っていう娼館らしいですー。もう契約に入っているのだとか~。後数名そこに売りとばされた少女たちもいるそうですー」

「その子たちは助けられそうだな」

「他には?」

「どうにも~子供たちは皆ウエスタンで売り飛ばしてるみたいで~。人間の国に行った子はいないみたいですね~」

「それは僥倖。望みが出来たな」

「大体貴族へ売りに出されているみたいでー。ストレスの捌け口として使われているみたいですー」

「「「……」」」

「無事な子がいればいいなって言っていましたねぇ……」



 貴族の家にストレスの捌け口……となると、無事では済まないだろなと思う。

 回復魔法で身体は治せても、心までは治せそうにはないのだ。

 それらの内容を精査し、兄が遠隔用の魔導具を取り出して手紙を投げ入れると、小さく息を吐いた。



「これらの情報は冒険者ギルドマスターとカドミル様に伝えた。後はどうなるかだ」

「大勢の貴族が捕まる可能性が出てきましたね」

「それなりに重い罰は与えられるだろう。爵位を取り上げられる可能性も高い」

「やってきた事が返るだけじゃて、断頭台よりはマシじゃろうな」

「断頭台……」



 まぁ、そこまで罪が重くなるのは仕方ない。

 何せ人身売買、許されると思う方が可笑しいのだ。

 その後ミラーちゃんが作ってくれていたお菓子をアイテムボックスに入れて、いざ囮本格始動と言う事で、今回は兄も一緒についてくる。

 ヴィーザルはお留守番だ。

 神が来ると「不味い」と思う獣人が多いと思うし、何より目立つと困る。

 裁きの時にガッツリとお願いしたい!



「俺の出番はまだ来なさそうだな」

「全員捕まってからだね」

「奴隷になっていたら俺が何とかしてやるから安心しろ」

「自分が奴隷になった事については?」

「これは他の神との契約だ、外すつもりはない」

「外すとどうなるんですか?」

「さてな? 一番欲しくない呪いでも貰いそうだ」

「それは嫌ですね……」



 そんな事を会話しつつ、午後の部は再開した。

 兄もついてきた事で、美男美女の兄妹と言う事が解り、今回のお客さんは女性客も少し多かった。

 流石兄である!

 将来有望な男の子にはトキメクよね!


 こうして何時もより早く販売が終わると、グルミンとクローがやってきて、貴族の屋敷に案内すると言われた。



「でも台車はどうしましょう」

「私の部下に孤児院へ持って行かせましょう。おい、持って行ってあげてくれ」

「畏まりました」



 そう言うと1人のサル獣人の男性が台車を乱暴に持って行く。

 あの野郎後で〆てやる!



「さ、貴族様がお待ちです。行きましょう」



 少々私がムッとしていたのに焦ったのだろう。

「後で部下に注意しておきます」と言ったが貴様のいう事は信用ならん! と心で叫んで「お願いしますね」と笑顔で口にする。

 こうして馬車に乗り込み向かった先はブルースター伯爵の屋敷で、中に案内されると応接室のようなところに連れていかされた。



「連れてまいりました」

「おお、来たか」



 デップリ肥え太ったオッサン……これでフェンリル?

 貴族のフェンリルと言うからもっとカッコいいのかと思ったけど、全然じゃん。



「これまた美しいフェンリル2匹にホワイトタイガーだな」

「そうでしょう?」

「あの、私たちは一体何をしにここへ?」



 売り飛ばされるの、知っていますけどね?



「ああ、君たちにはとても大事な仕事をしておうと思っていてね。しかしそこのオスフェンリルは中々……。うちの娘の婿になって貰いたいくらいに美しいな」

「光栄です。でも妹より美しいお相手なら良いのですが」

「ん――親の欲目で見ても美しと思うぞ? 今連れてこよう」



 そう言うと子供二人を呼び出したオッサン。

 貴族のフェンリルと言うのに興味があるし、美男美女フェンリルと聞いているのでどんな感じかは気になっていた。

 どれくらいのランクなんだろか?

 そう思って暫く待っているとドアが開きビラビラのドレスに身を包んだ、そこまで……美人でもない普通のフェンリルと、兄と比べるとFランクくらいの男のフェンリルが入ってきた。

 父はどうやら、イケメンはないらしい。

 それとも、母親が美人ではないのだろうか? 謎が深まる。



「お呼びだと……!」

「お父様、この中にわたくしの将来の……!」



 固まる2人、私と兄を指さして口を押えて顔面蒼白だ。



「おお、来たか。この2人が例のフェンリル兄妹だ。美しいだろう?」

「あ、あ、あ、当たり前でしょう!? お父様何を考えてますの!?」

「なんて恐れ多い事を……」

「ん、ん?」

「あなた方、今すぐお帰りになってくださいませ、今すぐに!」

「でも、御呼ばれしたのに直ぐに帰る訳にはいきません。取り敢えず御話だけでも聞こうかと思います。大事な用事があるそうなので」

「あああ……我が家はお終いだわ」

「義理とは言え父親が愚図だと子供も苦労するな……。これで我がブルースター家はお取り潰しか」

「一体お前たちは何を言っている」

「だってその方々は、」



 そう言った途端ドアがバアン! と開き中に雪崩れ込んできたのは兵士達。

 驚き固まるオッサンと子供達だったが、サトリちゃんがずっと【聞き耳】を立てていたのでそのまま私たちはサトリちゃんの後に続いて走り出す。

 上の事は兵士さんに任せて、今は子供たちが無事かどうかが心配だ!



「待て! 一体どうなっている! なんだ貴様らは!」



 そう叫ぶ声が聞こえたけれど、オッサンなんてどうなろうと知った事じゃない。

 子供たちは!?



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