第43話 領主様からの依頼
今すぐに領主の館に……となったのだが、サトリちゃんが「シー」と言いだすと聞き耳を立てていて――。
どうやら外に私や兄がどこかに行かないように、見張っている奴らがいるらしいとの事。どうしようかなと思いつつも出ないと話は始まらない。
「ヴィーザル様、ミラーちゃんもう一体出せます~?」
「出せるが……」
「私とミラーちゃんで女性用の買い物に行ってくるので、男性たちは入れないでしょう~? その隙に行ってきてください」
「だが、結構な時間が掛かるかも知れんぞ?」
「こっちもアレコレ店を回りながら移動するので。終わったらお爺ちゃんに呼びに来て貰います~」
「分かった」
どうやら私の姿をしたミラーちゃんを連れて、サトリちゃんが次は囮に成るらしい。
その隙に領主様へ話を付けて来いと言う事だ。
余り時間は掛けられない為、急ぎ向かう事になるのだが大丈夫だろうか。
私の姿をしたミラーちゃんを連れてサトリちゃんは「色々買い出しに行きましょうー!」と歩いて行った。
その後ろを2人の獣人がついて行くところまでは確認が出来た。
急いで外に出ると、私たちは同じ街の中にある領主の館を目指す。
既に冒険者ギルドマスターのヴェンさんには行って貰っているらしく、話はついているだろうとの事だった。
そのまま滑り込むように、見つからない様に素早く移動し、私たちは領主の館に到着。
ヴェンさんのお陰でスムーズに入ることが出来た。
そして直ぐに領主様に会う事になったのだが、鳥の獣人さんだった。
「君たちが狙われているというフェンリルの子供だね。儂はウエスタン領主、カドミルだ」
「神格持ちのフェンリル、カルシフォンと申します。こちらは同じく神格持ちの妹、カオルです」
「聞き及んでいる。そちらの馬獣人は神であることも、儂にもよくわかる。とても強い神なのだろうな」
「恐れ入る」
「それで、子供達は本当に商業ギルドの一部と、一部の貴族によって屋敷に囚われているのだな?」
「はい、商業ギルドのグルミン、そして同じく商業ギルドのクローという獣人です。また、子供たちを地下室に閉じ込めているのは……恥ずかし限りですが、同じフェンリルであり貴族のブルースター伯爵。その地下に子供たちが幽閉されているのを確認済みです」
「ブルースター……ああ、あの馬鹿倅が跡を継いで駄目になった所か」
「長男さんは何故いなくなったんですか?」
そう私が問いかけると、なんでも自分の領地を視察に行く途中、馬車が崖から落ちて死亡したのだという。
その死と言うのも不自然ではあったものの、事故死と判断され愚息と名高い次男が跡を継いだのだというのだ。
しかも、当時まだ健在であった祖父母は急死し、恐らく殺されたのではないかと囁かれている。
「ブルースター伯爵も、その商業ギルドの者達も、お二人が神格持ちと言うのを知らんのだろう。よくよく見ればすぐにわかるというのに」
「目が曇っているんだろう。欲に溺れた目をしていた」
ヴィーザルがそう告げると、カドミル様は溜息を吐き「3日後だったな?」と声をかけてくる。無論「3日後に呼びに来るそうです」と伝えると、その日にあわせて、ブルースター伯爵家に突入すると言われた。
無論、商業ギルドにいる2人もだ。
その上で他に繋がりのあるギルド員も捕まえるという算段となった。
「神格持ちの二人にこの様な事を頼むのは気が引けるが……頼む」
「売られた子供たちを取り戻せるかも……分かりませんからね」
「だが、人間と繋がって居る可能性も否定できない」
「ああ、解っている。イエスタ領主から、獣人に化けられるアクセサリーで相当な人数が処刑されたと聞いた。突入時は門を全て閉じる故、そのスキルを使ってはくれないだろうか」
「分かりました、お受けします」
そう言うとカドミル様はホッと安堵の息を吐き、直ぐに悲しそうな顔をすると「今までの子供たちは一体どこへ連れて行かされたのか……」と口にした。
取り戻したくとも、もう取り戻せない所にいる可能性の方が高いからだ。
もし取り戻せるのならば、是が非でも、ギリギリであっても助けに行くのだけれど……。
「3日後儂らも動く。どうか我々の為に力を貸してくだされ」
「畏まりました」
「囮は任せてください! その後のスキルも! ただ、晴れていれば使えますが、雨の日は使えないんです……」
「ほっほっほ。この地域は雨が少ない地域ですからな。問題ないでしょう」
「良かったです」
こうして手短にだが話を終わらせ、また同じように手早く素早く孤児院に戻り、ついでにお爺ちゃんにサトリちゃんたちを呼びに行って貰うと、色々買い物をしたサトリちゃんとミラーちゃんが帰ってきた。
ドアを閉めてホッと息を吐いたサトリちゃん曰く「私まで売ろうという話になっているんですが……」と呆れかえっていた。
確かにそれは呆れかえってしまう。
獣人化していて分からないだろうが、サトリちゃんはモンスターなのだ。
ホワイトタイガーのレジェンドモンスター。
それを知らぬ者達は恐れ多くも、そのレジェンド様の怒りを買ったようだ。
そして、3日後捕まった際には大暴れしていいと私が伝えると、サトリちゃんは心底嬉しそうに「暴れちゃうぞー!」と言っていた。
「屋敷、壊していいんですかね?」
「屋敷は証拠とか集めたいから壊さないで……」
「むー。仕方ないですね~」
「我々モンスターにとって、殺さない程度に暴れるというのが一番難しいんじゃよな」
「そうなんですよー?」
「うう……。今度力試しにダンジョン行く? 私が生まれ育ったところだけど……そこならドラゴンもキメラもいるよ?」
「行きましょう!」
「久々に暴れるかのう!」
こうしてお爺ちゃんとサトリちゃんのストレス発散も込で一度実家……と言うとアレだが、ダンジョンに戻る事になったが、それはそれで仕方ないのかもしれない。
なんだかんだ言ってもモンスターなのである。
モフモフの。お爺ちゃんはツルツルの、レジェンド様なのである。
「まぁ、確かに生まれ故郷に帰るのも一度はいいかもな」
「そうね。あの闇落ちしたドラゴンどうなったかしら」
「さぁ、どうだろうな」
神々が倒したのか、はたまたまだそのままなのか……謎は残ったものの、会いたくないモンスター1位である。
行って戦えなくはないだろうが……まだまだ私たちでは到底敵わない相手というのはいる訳で。
「あのドラゴン、キメラより強いよね?」
「当たり前だろう?」
「うん、回避で行きましょう!」
「そうしよう」
こうして兄と2人頷き合いつつ、私は3日後までお菓子屋をしながら商売に励み、ついに3日後がやってきたのだ。
囮になる心得はばっちり。
子供らしく、言われた通りに。
一応閉じ込められた場合、子供達を含めて無属性魔法でバリアを張っておこう。
「さて、行きますよ!」
「はい~!」
囮になりへ、いざ、出陣!
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