第42話 囮作戦と、引っ掛かった者達

 こうして始まった【囮作戦】は、早朝お菓子用に改造してある台車を孤児院の入り口に置かせて貰う事から始まった。

 行き交う日立は「孤児たちが商売でもするのかな?」なんて思っているだろうけれど、するのは私とサトリちゃんなのだ。

 お爺ちゃんは【隠密】スキル持ちの為、ついて来て貰う事になった。

 フェアリードラゴンを連れている冒険者はそれなりにいるので、喋りさえしなければ問題はない。



「いらっしゃいませ~! 期間限定の御菓子屋でーす! 朝食後のデザートに、1つ如何ですか~?」

「クッキーにパウンドケーキ! 野菜チップスと果物チップスもありますよ~!」



 呼び込みを始める事数分後、台車の回りには甘党であろう獣人達が集まっていた。

 試食品も食べて貰いどれがいいか選んで貰ったり忙しくしていると、昨日対応してくれたグルミンと、後を着けてきたクローも一緒にやってきたようだ。



「やぁ、大盛況だね」

「ありがとうございます!」

「俺達も何か買いましょうか」

「そうだね、今から貴族様の御屋敷に呼ばれていてね。珍しいから買っていこうかと思って」

「それなら一式詰め合わせ作りますね」

「所で、君たちは今どこで生活を?」

「フェンリル孤児院に部屋を間借りさせて貰ってます。期間限定の店なので、私たちも兄達の予定が終わったら旅に出る事に」

「そうか、期間限定だったのか……」



 そう会話をしながら一式集めたスペシャルセットを用意して手渡すと、お金を支払い「ありがとう」と言って去っていった。

 その様子を見てお爺ちゃんはパタパタと飛び上がり【隠密】を発動するとついて行ったようだ。

 後は本当に挨拶回りなのか、それとも――。

 そんな事を考えながらも笑顔で客の対応をしていき、朝の分が売り切れると台車をサトリちゃんが引きながら私たちはワザと少し遠回りをして、建て替え中のフェンリル孤児院のあった場所でお祈りをするフリをしてから孤児院へと帰っていく。



「んふふ」

「どうしたのサトリちゃん」

「別の人が見張ってますね~」

「あ――……グルミンたちは黒?」

「恐らく真っ黒です~」

「そっか~」



 なら徹底して後で潰そう。

 サトリちゃんは【聞き耳】と言うスキルがある為、声は筒抜けらしい。

 身体強化の1つだろうが、なんとも羨ましいスキルである。


 孤児院に到着すると、レースの布だけなので手に掴んで中に入り、シスターマーガレットたちに心配されながらも「大丈夫でしたよ」と笑顔で答えつつ、お爺ちゃんの帰りを待った。

 すると、窓からお爺ちゃんが入ってきて「大変じゃったわい」と埃まみれだ。



「子供たちを倉庫に捕まえておる場所も把握したぞい。じゃが少々面倒でな」

「と言うと?」

「……フェンリルの屋敷の地下におったのじゃよ」

「わ――……」

「そう言えば、聞き耳している時に『あの子供もフェンリルか?』って言っていましたね」

「やっぱりそう言われるって事は、女神のお母さんから生まれたにしては地味な子なんじゃないだろうか……」

「地味でも派手でもいいんです~! カオルちゃんはカオルちゃんだからいいんです~!」

「ありがとうです~!」



 そう言って抱きしめ合う私とサトリちゃん。豊満なお胸が羨ましいですー!



「あと一人捕まえてからと言っておった。恐らくカオルの事じゃろうな」

「よーし、頑張って囮になるぞー!」

「激怒したカルシフォンとヴィーザルが乗り込んできそうじゃがな」

「そこがいいのですよ。か弱い乙女、救い出される瞬間……ただしイケメンに限る」

「あ、その気持ち解ります~」

「だよねー!」

「うふふ、でも私が救いに行っても大丈夫ですよね?」

「勿論だよ!」

「やれやれ」



 こうして会話も終わり、後は詰めた話をお爺ちゃんが兄とヴィーザルにするという事で、扉を使って兄の居住空間に戻ると、まだ兄たちはいなかった。

 どうやら出かけているらしい。

 仕方ないので売り上げを【ネットスーパー】で買った金庫に入れて……。

 気分だけでも稼いだぞって言うのを味わいたかったのだ。

 物欲はきっと女神化を止めるに違いない!



「ミラーちゃんはどれくらいパウンドケーキとかクッキーとか出来たかな?」



 と、台所を見に行くと大量の御菓子が並んでいた。

 おお。これなら全く問題なくお昼も出せるな!

 問題は野菜チップスと果物チップス!

 残り時間はその2つを別の紙袋にドンドン袋詰めしておこう。

 こうしてサトリちゃんたちと会話しながら、次から次に袋詰めを終えていくと、ドアが開いた音がして兄とヴィーザルが帰ってきた。



「カオル、無事だったか」

「うん、どうやら商業ギルドの一部と誘拐犯は手を繋いでるっぽいね」

「俺達が調べた様子でもそうだった。スキルを使って調べたが商業ギルドでは2人」

「グルミンとクローだね」

「知っていたのか」

「丁度カオルちゃんが目を付けられまして、今日も孤児院までご丁寧について来てましたよ。『あの子はフェンリルか? フェンリルだとしたら高値で売れるな。いっそあの美貌なら娼館にでも売り出そうか』って」

「「「ほう?」」」



 部屋の空気が一気に重くなった。

 いや、それよりも寒い。

 私以外全員ブリザードだよ?



「俺の大事な妹を、娼館に売るだと?」

「許しがたい話じゃ! 絶対に許さんぞ!」

「で、誰から殺せばいい?」

「切り刻んで差し上げましょうね?」

「えーっと。フェンリルの屋敷の地下に子供たちがいるんだよね? その子達も助けないと」

「ふむ、フェンリルの屋敷の地下か……呼ばれるのを待つしかないか、連れ去られるのを待つしかないか……」

「恐らくカルシフォン様の事も探していると思いますよ? あの子は兄弟がいないのかって言ってましたから」

「なるほど」



 そう言うと、兄はニヤリと笑い私を見て凄い笑顔を見せると「どうやらヴィーザルの助けはいらなそうだな」と口にしたけど、ヴィーザルは「馬鹿を言え、2人に任せられるか」と溜息交じりに口にしていた。



「取り敢えず、まだ様子を見ている所のようじゃ。今日の昼もまた動くじゃろうて、その時兄弟の事を聞かれるじゃろうな」

「了解です」

「もし兄妹で来ないのかとか聞かれたら合図になるだろうから、その時は教えてくれ」

「はーい」



 こうして昼の露店近くになり、アイテムボックスにミラーちゃんが沢山作ったお菓子と、私たちが詰め直した野菜と果物チップスを入れて、サトリちゃんとお爺ちゃんといざ出陣!

 行きはフェンリル孤児院には寄らず指定されている場所での販売が始まり、沢山の甘党さんたちを捌きつつお菓子を売っていると――。



「やぁ、お得意さんにお菓子を持って行ったら喜ばれてね。フェンリルだと言ったら是非会いたいと言われたんだが」

「そうなんですか?」

「時にお兄さんは?」

「兄は別件で動いてますが……なにか?」

「なら、近々……そうだな、3日後良かったら貴族の家に行かないか? フェンリルの貴族でブルースター伯爵と言うんだが」

「分かりました。3日後ですね。兄にも伝えておきます」

「ここへ迎えに来るからよろしく頼むよ」



 どうやら3日後、御呼ばれした様だ。

 それまでにやるべきことはしておかねばならない。

 お爺ちゃんにこの事を兄に伝えてきて欲しいと行って貰い、私は笑顔でその後も変わらずお菓子を売り続けたが、30分もすれば売り切れとなり、ガッカリしながら帰る獣人さんたちに「ごめんなさい~! 売り切れです~!」と謝罪しながら帰ったのであった。


 そして孤児院に帰宅し、扉から兄たちの待つ居住エリアへと入ると色々根回しするべき話などがされているのだけれど――。



「カオル、これからウエスタンの領主に会いに行くぞ」

「え!」

「領主様も冒険者ギルド経由で話がいって、誘拐事件にはかなり困っていたらしいんだ。今回の事を話しに行こう」

「分かりました!」



 ――どうやら色々動くようですよ!


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