第41話 ウエスタンに蔓延る、子供獣人誘拐事件

 その日から私はニンジンやカボチャ等の野菜が入ったパウンドケーキやクッキー作りを始めた。

 まずは試食だ!

 幸い犠牲者となる人数は揃っている。

 失敗しても多少許してくれると信じている!


 野菜チップスや乾燥果物に関しては、【ネットスーパー】の力を借りる事にした。

 とても手が回りそうになかったからだ。

 こうして、ニンジン、ホレンソウ、カボチャにお芋のパウンドケーキを作り、クッキーは素朴な味つけの甘さ控えめを作った。

 獣人は甘さの強いものは余り好まない事が、リサーチで分かったからだ。


 また、この世界にはケーキが無い。

 そう、あろうことかケーキが無いのである。

 人生半分は損をしている!



「と、言う事で味見をお願いしますね!」

「これは……パウンドケーキか、懐かしいな。それに野菜チップスや乾燥した果物も懐かしい」

「パウンドケーキの上にあるナッツはカボチャの種とか使ってますから」

「なるほど」

「初めて見るな……」

「ふふふ、自信作です! 食べてみてくださいな」



 さぁさぁさぁ! そして感想を教えてくれ!

 そう期待を込めた目で見ていると、皆は1つずつ手に取り食べてくれた。

 そして、耳をピーンとさせると「旨いな!」と言ってくれたのだ!



「どうです? これ朝と昼に出そうと思ってるんですけど。数量限定で」

「いいんじゃないか? 売り切れてしまいそうだが、売れ残ったら食べたいな」

「俺はこのニンジンとか言うパウンドケーキが好きだ」

「流石馬」

「馬っていうな」

「ワシはこっちのサクサクしたクッキーが好きじゃのう。果物チップスとか言うのもまた……旨い!」

「パウンドケーキもいいですけど~、クッキーも捨てがたいです~!」

「わたしは どっちも 好きね」

「牛乳と クッキーの ハーモニーだね!」



 よし、どうやら商品化にはいけそうだ。

 パウンドケーキは市販のパウンドケーキ用の器などを使っているので、燃やして貰えばいいし、包装は買ってくれた人に紙袋に入れて渡せばOKかな!

 大中小の紙袋を用意しておこう。

 この療法に関しては試食用も用意して置けば、食べてくれた人が宣伝してくれるだろうしね。


 お値段は少し高いけど、パウンドケーキが銀貨5枚、クッキーは一袋銀貨3枚、野菜チップスや果物チップスも一袋銀貨3枚にしよう。

 仕事中のお供にいいと思うんだよねぇ。

 そうと決まれば、ヴィーザルにミラーちゃんを出して貰い、早速作ることになった。

 お菓子用の屋台と言うか、そういうのも用意しないとね。

 可愛い木製があればいいけど、後はレースの布地は大事よね。

 ルンルン気分でそれらを用意していると、兄たちは何かを話し合っている様だ。



「アーバント爺が冒険者に釘を刺してくれたおかげで、孤児院の子供を狙うと言う盗賊団はなりを潜めている様だな」

「でも、今度は加護を持っている子供を狙うんじゃないか?」

「可能性は否定できないが、治安維持に冒険者が動き回っているのは確かだ」

「ふぇっふぇっふぇ。しかし獣人の子供を狙った誘拐事件はこのウエスタンでは問題になっておったようじゃな」

「え! 誘拐事件とかあったの!?」



 初めて知る内容に、お爺ちゃんが隠密を使って調べてきた内容らしい。

 大体は孤児院から子供が消えていたようだが、それも今はなりを潜めているそうだ。

 誘拐された子供たちが何処に連れていかれたかは不明だが、獣人か、それとも獣人に扮した人間がしているのかまでは判断できなかったらしい。



「でも、フェンリル教会の子供たちは皆無事だったわ」

「そこが不思議なんじゃよ。貴族の息が掛かっておる孤児院の子供が消えて、そうでない所では子供たちは無事じゃった」

「……貴族が手引きしてる可能性も捨てきれない」

「それって、人身売買……? 孤児院と貴族の間で?」

「恐らくのう」



 どうやら随分と闇が深そうだ。

 攫われた子供たちは大丈夫だろうか……。



「もし仮に売られるとしたら、人間の国にだろうな」

「何故そんな事が解るんですか?」

「獣人は良い労働力になる……と言うのが人間の考えなんだ。国を乗っ取る事を考える馬鹿も多い」



 そう溜息交じりに口にしたヴィーザル、人間側の闇を感じたし「獣人の子供は特に恰好の餌食」だと聞かされて全員が眉を寄せる。

 助けてやれるものなら助けてあげたいが、もう人間国に渡っていたらどうしようもない。

 だが、纏めて連れて行くだろうから何処かに隠されている可能性の方が高い。

 そこを何とか出来れば……恐らく。



「今は3人の獣人の子が行方不明らしいな」

「ああ、まだ増やして連れて行くつもりだろう。一芸に秀でた子供は特に狙われるし、見目がいい子供もまた狙われる」

「それって~。カルシフォン様と、カオルちゃんが危ないって言ってません?」

「「ハッ!」」



 それなら、私が目立てば連れていかれるのでは?

 おとり捜査ですよ!

 そう提案すれば兄とヴィーザルに「何を考えてるんだ!」と言われたが、それはそれ、これはこれ。



「だって、狙われるなら私が一番狙われやすいでしょう?」

「それはそうだが……」

「おびき寄せる為、囮になりましょう! 大丈夫です! 子供たちが奴隷の首輪をつけられてなければ助けられます!」

「その場合は俺が外せる……気にするな」

「流石神ィ~!」



 そうと決まれば、冒険者であることを隠してイエスタから来た旅人と言う事にしておこう。

 路銀を稼ぐために他の領地の手習いで習ったクッキーやケーキを売っている事にして、帰りは必ずフェンリル教会によって帰っているという事にすればいい。



 囮作戦を決行しつつ、隠されている子供達を助けますよ!

 それがこのウエスタンに着いてからの私のミッションとなった。



 ――それから数日かけてパウンドケーキやクッキーを大量に作り、アイテムボックスに入れ込んでから商業ギルドへと向かった。

 まさかとは思うけど、商業ギルドが誘拐事件に関係してるって事は無いだろうか?

 何処に敵がいるかは分からないけど、気を引き締めていこう。



「ふむ、お菓子屋を屋台でやりたいと」

「はい! イエスタや色々な地域を回って御菓子作りには自信があります」

「しかしねぇ……」

「こちらが試作品です。一度食べてみてください」



 予め用意していた紙袋に入っているパウンドケーキとクッキーを取り出し手渡すと、「ほう?」と目を見開いた。

 それもその筈、素朴ながらも美味しい甘味だ。

 甘い物がそれなりに好きなウエスタンの住民なら飛びつくだろう。



「ふむ、味は悪くないですね。いいでしょう、許可を出します」

「ありがとうございます!」

「この味なら貴族様にも喜んでもらえるでしょう。どうです? 貴族様相手の商売と言うのは考えていますか?」

「今のところは……ご縁があればとは思いますが」

「ふふ、いずれご縁があると良いですね」

「はい!」



 そう言って商業ギルドのグルミンさんに許可証を貰い、明日から商売がスタートすることを告げて家に帰る。

 その際、誰かがつけてきているのを感じ、建て替え中のフェンリル教会に立ち寄り、お祈りを捧げるフリをしてから人ごみに紛れて路地に入りササっと居住空間に入って姿を消した。



「商業ギルドのギルドマスターは知らないでしょうけど、私たちが出てきてから所業ギルドから一人、居場所を調べたいのか後を着いて来ていた獣人がいますね」

「いましたね~。グルミンさんの隣にいた、クローさんでしたね」

「商業ギルドも1枚噛んでるのか」

「今回は随分と慎重にやらないと、他の子供たちの命も掛かってきそうだな」

「ジワジワ餌を巻くしか今はないですね」

「そうだな……」



 商業ギルドの一部も手を染めているのなら、間違いなくどこかの屋敷を拠点にしているだろう。

 そこを探しきれれば……何とかなりそうではあるけれど。

 取り敢えず、今回の事はフェンリル教会のシスターにも協力を頼むしかない。

 それが決まると、拠点移動してからシスターマーガレットに事情を説明し、犯人が捕まるまでの間、暫くの間この孤児院を間借りしている事にして貰う事に決定した。


 さて、明日から商売のスタートだ。

 どうなるかな?

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