第40話 ウエスタン領の冒険者ギルド

 やはり朝はサッパリと食べられるものを好むのが獣人なんだろうか?

 あっち世界だと、貰えれば貰える分だけ食べていた我が家の犬を思い出してしまうけれど、意外と獣人は朝弱いのかもしれない。

 胃が動きだすのに時間がかかる……みたいな。

 そこに朝から野菜タップリお肉も柔らかいポトフなんかは人気が高いのは頷ける。

 美味しいものって正義だからね。



「後は、王都が近いだけあって各種クッキーは多かったね」

「雑食系の獣人には美味しいんでしょうね」

「甘いものはええぞう。ワシは花の蜜なんか大好物じゃ!」

「ふふ、クマ獣人も好きそうよね」

「種族によって異なるんですねぇ」

「でも、ニンジンクッキーとかもあるから、草食用のクッキーなんかも作れそう。野菜のパウンドケーキとか」

「そりゃまた革命じゃな」

「それに、ドライチップスとかってないのかな」

「聞いたことないですね~」

「期間限定お菓子屋さんでもいいかも」



 出すのは野菜チップスに果物チップス、それに甘さ控えめのクッキーとかね。

 クッキーの型抜きくらいしかないだろうけど、そういうので沢山作ればいい訳だし。

 氷の魔石と火の魔石を買ってきて貰って、プリンなんてのもありよね。

 限定プリン100個まで。とかにすれば売れそうでもある。

 何せこちらには運よく【ネットスーパー】がある訳だ。

 プリンの元を大量購入して、後は瓶も購入して作って行けばそれなりに何とか。

 それこそ瓶じゃなくても良い訳だし。安いプラスチックとかじゃく、割れて土にかえっていくような陶器じゃないとダメだろうけど。


 自然破壊禁止!

 ゴミはちゃんと持ち帰ってますよ毎回ね!


 お試しに色々作ってみて、まずは試作してみようかな。

 毒見役は皆さんにもして頂いて……美味しいかどうかのチェックはして貰おう!

 そうと決まれば早速行動に動かねば。


 それに王都に一番近だけあってソフトクリームみたいなのは美味しかった。

 王都で流行っているアイテムも結構置いてあったし、それなりに刺激の多い日常を過ごせたと思う。後はお菓子作りが待ってるだけだ。

 フェンリル孤児院の取り壊しと新しい建設もスタートし、今の所何もかもが順調だ。

 何より――。



「イエスタから来た冒険者か、しかもSランク」

「はい!」

「後2人程仲間がいるが、そっちは別件で忙しくてのう。ワシらが来た感じじゃ」

「よろしくお願いします~」



 可愛い女の子2人じゃ絡まれても返り討ちには出来るけれど、ここは【言語理解】が使えるお爺ちゃんがいてこそだ。

 冒険者の間でも、【言語理解】が出来る魔物はとても強いと言われていて、その多くがレジェンド系であることは知られている。

 だからこそ――。



「それで、アンタ達は何がして欲しいんだ?」

「ドラゴンの解体をお願いしたいですね。お肉は貰うので後は好きにしてください」

「肉を俺達に寄越さないか?」

「んふふ――……。いくら出します?」

「そう来たか。ドラゴンの肉に飢えている貴族は多いんだ。ドラゴン1匹にそれなりの金は払おう。色を付けてな」

「ふむふむ」

「ただ、こちらの食べられる魔物も多く買って貰わねばならないお得意様でもあるからなぁ……。本当に限定で1匹売ってくれればそれでいい」

「分かりました、1匹は売りますので、後の奴は素材を買って貰って、お肉だけ下さい」

「良いだろう」



 言質は取ったぞオッサン。

 そう内心口にしつつ笑顔で契約を交わす。

 そして解体部屋へと向かうとついでにとばかりに口にする。



「そう言えばイエスタの人達がここでは蜘蛛の解体もしているとか」

「蜘蛛!? そりゃ……しているが……」

「蜘蛛の方もして貰っていいです? ああ、肉とか要りません。全部買い取りで」

「蜘蛛の糸や蜘蛛の外皮はそりゃ防具にもなるくらいだからな……。良いだろう、そちらも5匹までなら今は買い取れる」

「たったの5匹かー」

「たったの!?」

「それだけ死線を潜り抜けてきたんじゃよ。なぁ?」

「そうですね! キメラとか!」

「おいおい、冗談だろぉ?」

「見ます? キメラ3匹ならアイテムボックスに入ってますよ?」



 ニッコリ笑って口にすると、ウエスタンの冒険者ギルドマスターであるヴェンさんが顔を引きつらせていた。



「なんだ? 嬢ちゃんもしかして、神格持ちだったりするのか?」

「はい! 良く分かりましたね」

「ちなみに出払ってる男の2匹は、片方はこの嬢ちゃんとお主が言ったカオルの兄でこちらも神格持ち、もう一人は馬獣人で、そっちは神じゃな」

「神格持ちが2匹に神が1人!? じゃあアンタらは……」

「カオルにテイムされた隠し部屋のボスじゃったり、ダンジョンボスだったりするのう」

「まだレジェンドになりたてほやほやなんです~」

「「「レジェンドモンスター……」」」



 早々お目に掛かれないレジェンドモンスターで、しかも言語理解している上に獣人化までしているとなると、最早ヴェンさんは両手を上げて真っ青になり首をフルフルと横に振っている。



「襲ったりせんから安心せぇ。ワシらは単純に解体と買取を願っているだけじゃて」

「そそそ、そうなんですね?」

「なんじゃ? イエスタのギルドマスターの方がもっとビシッとしとったぞ? お主もしっかりせんか」

「爺さん、普通はレジェンドモンスター引き連れた神格持ちのフェンリルなんて、早々にお目に掛かれない神に等しい存在だ。ぞんざいに扱う真似したら神の怒りを食らうぞ!」

「既に食らっておる貴族はおるようじゃな。フェンリル教会を知っておるか?」



 そうお爺ちゃんが告げると、「ああ、壊れかけの……」と口にしてから全員がバッとお爺ちゃんを見た。



「カオルの母親は女神じゃ。その女神の怒りに触れたのが……誰かは解ろう」

「きき、貴族のフェンリル……ですか?」

「誰とは言わん。が、懇意にしていい事は、何1つないじゃろうな」



 母の怒りを感じ取っていたのだろう。

 お爺ちゃんは溜息交じりにそう告げると流石にヴェンさんも顎に手を置き、悩み始めた。

 何やらあるのだろうか?



「あそこは爺様たちの代までは、そりゃ~いい人たちだったんだよ」

「ふむ、そう聞いておる」

「だが本来嫡男だった長男が家を飛び出して愚息の次男夫婦たちが後を継いでからは……良い噂は聞かない。フェンリル故に美しくなることに余念がないし、慈愛を持って誰かに接するというのも無くなった。悪い事には手を染めていないようだが、金と美に執着しているし。実際そこの兄妹は美男美女だが……カオルを見ると、雲泥の差だな」

「じゃろうな。女神の娘とただの貴族の娘を同列に扱うこと程、恐れ多い事はない」



 そうなのか。

 私はそのクリスとクリスティーヌとか言う腹違いの兄妹に会ったことが無いから何とも言えないけど、そうなのか?



「ま、アイツらにはそれ相応の罰が下されるのならいいんじゃないか?」

「うむ、それと女神さまの意向で、フェンリル教会は加護を与えたられた。それを横取りしようものなら、更なる罰がその者達に堕ちるじゃろうな」

「怖いねぇ……。女神の罰なんて食らいたいくも無い」

「今後、フェンリル教会は女神フェンリルとその息子が運営に協力していく事も決まっておる。下手に手をだしてくれるなよ?」

「分かった。冒険者達にも伝えておくよ」

「そうしてくれると助かるのう」



 フェンリル教会では、既にご神体が壊れていた為、母が神の国からご神体となる新たな像を持ってくると言っていたのだ。

 恐らく母を模した女神像だろうが、きっと美しいだろうなぁ……」


 そんな話題を口にしつつ、どうやらお爺ちゃんは噂を流す為にまず冒険者ギルドで庶民から広まるように仕向けたようだ。

 何故そうしたのかは分からないけれど、噂を流すなら商業ギルドだろうに。

 でも、その結果は追々わかるようになって行く。


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